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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q2 弁護士が診察に同席することを求めてきたらどうすればよいか?

1、今回のご相談内容
 以前、顧問先の神経内科医師から、
「認知症疑いの患者さんの診断に際し、日常生活の様子を確認するため、家族への問診をする必要がありましたので、『次回は、家族も一緒に来て下さい。』とお伝えしました。すると、次の診察時、家族4人(長男夫婦、長女、次女)に加えて患者さん本人の代理人であるという弁護士さんが診察室に入ってきました。どうやら家族間でもめ事があるようで、誰を診察に同席させるかで、一時、診察室は大騒ぎになりました。取りあえずその時は、『病状把握と診療上、家族の意見は重要なので、全員同席してください』とお伝えし、その場はなんとか落ち着きました。しかし、今後もこのような状況が続くと、通常の診察に支障を来すだけでなく、他の患者さんにも迷惑がかかるので大変困ります。どうもその弁護士さんは患者さん本人というよりも、長男夫婦の意向を受けて動いているようで、本日、その弁護士さんから当院に対し内容証明郵便が届きました。その内容証明郵便には、『長女、次女を診察に同席させないでほしい』、『長女、次女からの誤った情報を基に診断されているのだとすると、誤診の可能性がある』などと書かれています。どうしたらよいでしょうか。」とのご相談を受けました。
2、回答
(1)論点の整理
 今回のご相談内容には様々な論点が含まれているようですので、まずは、整理してみましょう。考えられる論点としては次の3点です。
【論点】
@ 果たしてその弁護士は患者本人から有効な委任を受けているといえるのか?
A 仮に@につき、患者本人から有効な委任を受けた弁護士であるとして、その弁護士から診察に同席することを求められた場合、これに応じなければいけないか?
B 家族間でもめ事があるため、患者本人の診療方針や日常生活の様子について意見がバラバラである場合どうすればよいのか?
(2)論点@について
 その弁護士は患者本人の代理人とのことですが、そもそも患者本人は認知症の疑いがあるくらいですので、患者本人から有効な委任を受けているのか疑問があります。つまり、患者本人が事理弁識能力を有していなかった場合、そもそも弁護士に委任するという契約(委任契約・民法643条)を締結することができないからです。その場合は、まず、家庭裁判所に成年後見人の選任申立をした上で、家庭裁判所から選任された成年後見人が、患者本人のために弁護士に委任するという段取りを踏む必要があります。
 今回のケースでは、まだ成年後見人は選任されていないようですが、そもそも認知症疑いのある患者ということですから、事理弁識能力を有していない可能性もあり、患者本人から有効な委任を受けた弁護士であるという確証が持てないことになります。
(3)論点Aについて
 医師は通常、診療契約に基づいて患者を診察するわけですが、診察をするという行為は法律行為ではありませんので、代理に親しむ行為ではありません(医師はあくまで患者自身の心身の診察を行うのであって、当然のことながら、弁護士の「ココが痛い」といった主訴に基づいて診察するわけではないですよね)。
 従って、仮に患者本人に事理弁識能力が認められ、その弁護士が患者本人から有効な委任を受けた代理人だったとしても、診察を受ける行為の代理業務などあり得ず、弁護士が診療行為自体に介入することはできません。
 よって、患者本人から委任を受けた弁護士ということで診察に同席を求められた場合、応じる必要はありません。
 もちろん、家族がたまたま弁護士だという場合、話は別です。実際、当職自身、母親の診察には同席しますが、それは弁護士として同席しているのではなく、単に家族(娘)として同席してるということなのです。
(4)論点Bについて
 まず、親族間・家族間のトラブルを診療行為に持ち込まれること自体、診療妨害行為です。ご相談のケースでも医師が認知症疑いの患者の診療を行うに当たり、家族からの問診が必要ということで、診察時に家族の同行を求めたにも関わらず同行した家族間でのトラブルを診察室にそのまま持ち込み、弁護士まで連れてくる始末で、正常な診療行為が立ち行かなくなるばかりか、他の患者さんにも迷惑がかかるような状況ということですから、明らかな診療妨害行為にあたります。
 それゆえ、そのような状況が続くようでは、患者本人の診療自体を拒否せざるをえないと通告すべきだと思います(ちなみに、診療を拒否した場合、医師法19条1項の「応召義務」違反の問題が生じる可能性がありますが、診療妨害行為が認められる以上、診療を拒否するだけの「正当事由」が認められるだろうと思われます。なお、この応召義務については次回ご説明させていただく予定です)。

(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第2回 掲載記事より(平成30年5月号・第45巻第5号 通巻587号・平成30年5月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))

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