大阪市北区西天満4丁目10番4号
西天満法曹ビル601号室
水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q4 透析拒否の患者さんにどう対応すればよいか〜究極の選択〜

1、今回のご相談内容
 先日、顧問先の複数の病院から、患者さんが透析を拒否されていて対応に困っているという内容のご相談を立て続けに受けましたので、今回はその中から2件のご相談を取り上げさせていただきます。
@ 透析拒否のモンスターペイシェントのケース
 整形外科に入院している患者が院内の備品を壊したり、看護師に暴力を振るってけがをさせたりして病棟で対応に困っている上に、透析を含む一切の治療を拒んでおり、主治医からの度重なる説得にも応じず、「この病院にいたら殺される」と言って本人が退院を強く希望している。他院であれば、治療を受ける可能性もあるため、本日退院の予定である。しかしながら、このまま透析を受けなければ、退院しても数日以内には救急搬送される可能性がある。その場合、受け入れなければいけないのか?
A 入院中の患者さんが透析拒否されているケース
 消化器外科に入院している患者で術後に状態が悪化し、週3回の人工透析を継続していたが、「何回も嫌だ」と透析を強く拒否され、主治医が透析を中断すると命にかかわると説明しても納得しないとのこと。家族に状況を説明したところ、家族も本人が透析を希望しないのであればその意思を尊重して欲しいとのこと。病院としては、一旦、週3回の人工透析を開始した以上、その透析を中断することは人工呼吸器を外すことと同じことだと思うが、どうすればよいのか?
2、回答
(1)@のケースについて
ア、前提問題として、まだ治療が必要な患者さんが退院を希望した場合、退院を許可していいのでしょうか。
 もちろん、病院としては、まだこの病院で治療が必要な患者さんを退院させるということは、通常では考えられません。
 しかしながら、この患者さんは、透析治療を含めてこの病院における一切の治療を拒んでいるわけですから、むしろこの病院での入院を継続すること自体、この患者さんのためにもなりませんし、もしこの病院を退院さえすれば、他院で治療を受ける可能性もあるということですので、当然退院を許可してよい事案だと思います。
 加えて、看護師に暴力を振るって怪我をさせる行為は、傷害罪(刑法204条)に該当しますし、病院の備品を壊す行為は器物損壊罪(刑法261条)に該当しますので、いずれも明らかな犯罪行為です。したがって、本来、傷害行為の被害者である看護師さんや、備品を壊された病院が、警察に被害届を出すべきケースです。医療者側が患者さんからの加害行為により被害を受けていることから、もはや病院とその患者さんとの間の信頼関係は壊れてしまっているといえますから、退院を許可しても「応召義務」違反には問われないものと思われます。
イ、ただ、問題は、もし退院後、他院でも治療を受けない場合、数日以内には救急搬送される可能性があり、その場合にこの病院は受け入れを拒否できるかという点です。
 ここで、前回、ご説明させていただいた「応召義務」(医師法19条1項)が問題となります。
 本来であれば、この地域において、この病院は、救急搬送される患者を拒むことは出来ないということでした。
 しかしながら、この病院に救急搬送しても、この患者さんに意識があれば、また、「この病院にいたら殺される」と言って、治療一切を拒否される可能性が高く、かえって受け入れてしまうと、患者さんを見殺しにしてしまう危険性が高いわけです。
 もし、この患者さんに意識がなければ、この病院で救急対応をするべきということになりそうですが、それでも、この患者さんが意識を回復した場合は、同じ問題に突き当たるわけです。
 ということで、究極の選択ではありますが、この患者さんが救急搬送されても、この病院としては受け入れを拒否せざるを得ないでしょう。
 そして、救急搬送の打診があったとしても、その時点で断るというように、院内で意思統一を図っておく必要があると思います。
(2)Aのケースについて
 確かに、人工呼吸器を外すことと、継続していた透析治療をしないということは、命に直結するという意味では同じと言えます。しかしながら透析は一回一回個別の処置ですから、透析をしないということは、一旦装着した人工呼吸器を外すこととは同じではありません。
 そして、本来患者さん本人が拒否している以上、患者さん本人の同意を得ずして無理やり透析治療を実施することは出来ません。 ただこの場合、どちらにしても訴えられるリスクはあります。すなわち、
ア、本人が拒否しているにもかかわらず、それを無視して透析を実施した場合、本人の自己決定権の侵害だと訴えられる可能性があります(エホバの証人のケースと同じです)。
イ、逆に透析を実施せずに、その結果、この患者さんが死亡した場合、遺  族から訴えられる可能性があります。
 このケースの場合、いずれにしても究極の選択ということです。
 それゆえ、患者の意思を尊重し、上記イを選択する場合、ご遺族から訴えられるリスクを想定して、患者さん本人が拒否していることを明確にカルテに記載しておく必要があります。その際、患者さん本人から拒否している理由も聴取し、カルテに記載しておく必要があります。
 また、できれば書面で説明内容を記載し、その書面に本人およびキーパーソン(ご家族)の署名をもらっておくことをお勧めします。

 (月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第4回 掲載記事より(平成30年7月号・第45巻第7号 通巻589号・平成30年7月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))

©Copyright 2007 Mizushima Law Office all rights reserved.