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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q5 検査結果を見落としてしまったら・・・(その1)

1、今回のご相談内容
 先日、某大学病院が、X線画像診断報告書の確認遅れの結果、患者が死亡したということで謝罪会見を開き、全国的なニュースとなりました。残念ながら、このような検査結果の見落としに関するご相談は、当職のところにも日常的に寄せられており、実際に紛争化することも多いのが現状です。
 そこで、今回から複数回に渡り、検査結果の見落としに関するトラブルについて取り上げたいと思います。
2、検査結果の見落としケースの分類
 各医療機関毎に検査の流れやシステムが異なりますので、一概には言えませんが、検査結果の見落としが生じる場合としては、概ね次のように分類できると思います。
(1)主治医が自分の専門領域の検査結果を見落とした場合
 ア、放射線科医師の画像読影所見がある場合
 イ、放射線科医師の画像読影所見がない場合
 ウ、画像検査以外の検査結果(腫瘍マーカー等)の見落としのケース
(2)主治医が自分の専門領域外の検査結果を見落とした場合
 ア、放射線科医師の画像読影所見がある場合
 イ、放射線科医師の画像読影所見がない場合
 ウ、画像検査以外の検査結果(腫瘍マーカー等)の見落としのケース
3、では、モデル事例をいくつか挙げてみましょう。
(1)事例@
 ヘルニアの治療中に、経過観察目的でMRI検査を実施したところ、放射線科の画像読影所見に「悪性腫瘍の疑い」と記載されていたが、主治医はヘルニアの検査結果のみに気を取られ、画像読影所見の「悪性腫瘍の疑い」という指摘を見落とした結果、悪性腫瘍に対する治療開始が遅れたという事例(上記2の(1)アに分類されるケース)。
(2)事例A
 健康診断のために受けた胸部X線検査では、特に異常が指摘されていなかったが、2年後に肝癌に罹患していることが判明するとともに、胸部X線検査で肺の悪性腫瘍が発見されたことから、2年前の健康診断の際の胸部X線画像を見返したところ、既に重大な疾患の存在を疑うべき所見が認められたという事例(上記2の(1)イに分類されるケース)
(3)事例B
 主治医がオーダーした血液検査の内、(一部の腫瘍マーカーは外部委託のため、結果判明に数日を要するが)検査当日に判明した検査項目がすべて正常で、病状も安定していたことから、3ヵ月後の外来受診を予定した。数日後に委託先から届いた検査結果では、腫瘍マーカーの異常値が指摘されていたが、主治医はその検査結果を確認しないまま転勤した結果、悪性腫瘍に対する治療が3ヵ月遅れたという事例(上記2の(1)ウに分類されるケース)
(4)事例C
 冠動脈疾患の鑑別のため、冠動脈CT検査を実施したところ、幸い冠動脈に異常所見は認められず、放射線科の読影所見でも「冠動脈有意狭窄なし」との記載がされていたことを主治医が確認して安心してしまった結果、肺に関する読影所見として「肺癌の可能性あり」が指摘されていたことを見落としてしまったために、肺癌の治療が1年遅れたという事例(上記2(2)アに分類されるケース)
4、では、これらのモデル事例において、医療者は法的責任を問われることになるのでしょうか。
 医療者にしてみれば不幸な偶然が重なって発生してしまったともいえますが、法的にみると、いずれも落ち度(「過失」)が認められます。
 「過失」とは、課された注意義務に違反すること(注意義務違反)をいいます。
 そして、「過失」があって、それによる損害が発生した場合、法的責任が発生します。
 法的責任としては、民事上の責任、行政上の責任、刑事上の責任の3つがありますが、ここでは民事上の責任についてご説明します。
 まず、民事上の責任を負うのは、開業医の場合は医師個人、勤務医の場合は医師個人と勤務先の医療機関です。
 そして、事例@の場合、MRI検査の画像読影所見に「悪性腫瘍の疑い」との指摘があるわけですから、たとえMRI検査をオーダーした目的がヘルニアの経過観察であったとしても、それにのみ気を取られていたということは、残念ながら何の抗弁にもならず、注意義務違反=過失が認められるわけです。そして、そのために、悪性腫瘍の治療開始が遅れたということ自体、損害となりますから、民事上の責任は免れません。
 事例Aは、実際に悪性所見が認められたという結果から遡ってその先入観で2年前の画像を見返したからこそ、異常所見が読影できたわけで、健康診断を担当した医師が何の先入観も持たずに2年前の画像のみで異常所見を見抜くのは、酷なケースと言えるかもしれません。しかしながら、いかに健康診断のためとはいえ、その2年前の胸部X線検査画像を単独で読影して異常所見を見抜くことが不可能ではない以上、もし仮に裁判になった場合には、「過失」が認められる可能性があります。
 事例Bと事例Cについては、次回ご説明させていただきます。

 (月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第5回 掲載記事より(平成30年8月号・第45巻第8号 通巻590号・平成30年8月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン)) 

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