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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q7 検査結果を見落としてしまったら・・・(その3)

1、今回のご相談内容
 前回、前々回に引き続き、今回も検査結果の見落としに関するトラブルについて取り上げたいと思います。
2、事例C(放射線科医師の画像読影所見があるにもかかわらず、専門領域外の検査結果を見落としたケース)の概要について
 心電図に異常所見がみられ冠動脈疾患の可能性があるということで、A病院の循環器内科で冠動脈CT検査を受けたところ、幸い冠動脈には大きな異常はなく、すぐに終診となりました。
 その約1年後、今度は、胸部CT画像で肺に異常陰影があるということで、A病院の呼吸器外科を受診し、肺癌と診断されましたが、既に多発骨転移(ステージW)があったために手術適応はなく、A病院の呼吸器科内科において化学療法、放射線療法を行うこととなりました。予後は長くて6カ月の見込みでした。
 ところが、その際(A病院の呼吸器外科を受診した際)、約1年前に受けた冠動脈CT検査に関する肺の検査レポート(放射線科医作成の画像所見レポート)において、肺癌(ステージTa)の可能性が指摘されていたこと、それにもかかわらず、A病院の循環器内科の主治医が、その肺の検査レポートを見落としていたことが発覚しました。
 つまり、冠動脈CT検査において胸部の断層撮影を行って冠動脈を撮影する際、肺を含む胸部全体も同時に撮影されるため、A病院では、冠動脈の画像については(主治医とは別の)循環器内科医が読影診断してレポートを作成するとともに、肺の画像については放射線科医が別途読影診断して(冠動脈とは別に)レポートを作成することになっていました。
 しかしながら、循環器内科の主治医は、冠動脈CTレポートは確認したものの、肺の検査レポートを確認していなかったため、肺の異常所見を見落とした結果、治療が約1年遅れ、肺癌が進行(ステージTa⇒ステージW)してしまったわけです。
3、事例Cについての法的分析と問題発覚後の対応
(1)「過失」について
 A病院の循環器内科では、冠動脈CT検査を実施した際、主治医が自らCT画像で冠動脈の所見を確認するとともに、主治医とは別の循環器内科医が読影診断して作成したレポートも確認していました。ただ、肺の画像については、専門外である主治医(循環器内科)が自ら肺野条件の画像自体を読影することまではしないとのことでした。それゆえ、A病院では肺の画像に関する読影については、放射線科医が読影診断して肺の検査レポートを作成することになっており、主治医(循環器内科)はその肺の検査レポートを確認するという流れになっていました。
 そして、この事例Cでは、主治医は、冠動脈CT検査の主目的である冠動脈について異常所見がなかったことから、冠動脈CT検査の目的を果たした安心感からか、肺の検査レポートの確認を怠り、肺癌(ステージTa)の可能性が指摘されていたことに気付かなかったわけです。したがって、主治医に「過失」が認められることは明らかです。
 つまり、主治医(循環器内科)に専門外の肺の画像自体の読影をする義務までは求められないとしても、届いていた肺の検査レポート(放射線科医の読影診断結果)を確認する義務は求められますので、その確認義務を怠った点につき、「過失」があるということになります。
 ただ、システム上の問題として、まず、A病院における冠動脈CT検査では、一つの検査で2枚の異なるレポートが作成されるという特殊性があり、どうしても本来の目的ではない肺の検査レポートが主治医の目に触れにくいという問題点がありました。加えて、A病院では、冠動脈CT検査に限らず、放射線科医が異常所見に気付いて読影レポートに記載したとしても、主治医が自らその読影レポートを読まない限り、主治医に異常所見の存在をタイムリーに伝えるようなシステムになっていないという問題点もありました。
(2)「損害」について
 約1年間、肺癌に対する治療が遅れた結果、ステージが進行し、手術適応がなくなったため、予後が大きく変わる可能性が高いことから、肺癌により患者さんが死亡された場合、その全損害を賠償する義務が発生することになります。
 つまり、上記1の過失による肺癌に対する治療の遅れと、患者さんの死亡との間に因果関係があるということです。
(3)問題発覚後の対応について
 異常所見の見落としという予想外の事態が発生した場合、その後の対応次第では、患者さんとの間で紛争に発展することになります。
 事例Cの場合、A病院ではこの問題が発覚した直後から当職に相談があり、肺の検査レポートの異常所見を見落としてしまった主治医自らが、この患者さんとご家族に対して、見落としの事実をあのままに伝えて謝罪をされ、誠意を尽くされました。その結果、その後も患者さんは、A病院を信頼され、継続して受診されました。
 幸い、同病院の呼吸器内科における抗がん剤治療が奏功し、当初、予後は長くて6カ月の見込みでしたが、その後2年以上も小康状態が続きました。
(4)再発防止策について
 まず、これまでA病院では、冠動脈CT検査において、冠動脈と肺の読影について2つの異なるレポートが作成されていましたが、それを一元化することになりました。
 さらに、本来検査の主目的ではない点につき偶然異常所見が見つかったような場合にこそ、主治医にタイムリーに知らせる必要があることから、異常所見が見つかったような場合は、放射線科医から直接タイムリーに主治医に伝達するシステム(例えば、主治医が電子カルテにアクセスした際にアラームが出て、主治医が異常所見を見るまでアラームが出続ける等)の構築に取り組むことになりました。
 他ならぬ患者さん自身が自分の検査結果に対する関心が強いのが通常ですから、検査結果所見そのものを患者さんに渡すことにより、主治医が患者さん本人と一緒に検査結果を確認するということも必要かもしれません。

(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第7回 掲載記事より(平成30年10月号・第45巻第10号 通巻592号・平成30年10月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))

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