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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q12「医療事故だから診療費は支払いません!」と言われたら・・・。

1、今回のご相談内容
 よく顧問先の病院から、「『病院での事故だから診療費は支払いません!』と患者さん側から言われたのですが、どうすればいいのか」というご相談を受けます。実は、この種のご相談は、恐らく当職のところに寄せられるご相談の中で最も多いと言っても過言ではありません。
 そこで、今回は、そのような場合、どう対処すればいいのかについて、取り上げさせていただきます。
2、「診療費の免除=自己負担分の免除」は間違い
 確かに、医療事故が発生した直後に、診療費の請求をすると、ただでさえ医療ミスではないかと医療者側に不信感を募らせている患者側を余計怒らせてしまうかもしれません。ケースによっては、今回のご相談のように、「病院での事故は医療ミスだから病院が負担するのは当たり前だ」と正面切って言われることもあり、その対応に苦慮されているようです。
 このような場合、医療者側は、なるべく穏便に済ませようとして、「当院で起こった事故なので、診療費は請求しません」と、診療費を免除していることが多いのではないでしょうか。ただ、そのような場合、多くの医療機関では、患者側から支払ってもらうはずの自己負担分を免除した上で、残りは保険者にレセプト請求をしているのではないでしょうか。
 しかし、その対応は間違いです。
 診療費、つまり患者側の自己負担分を免除しながら、残りを保険者にレセプト請求する行為は、自己矛盾であり、保険者に対する「詐欺」行為にあたる可能性があるからです。自己負担分を免除するのであれば、残りを保険者にレセプト請求することも止めていただきたいと思います。
3、診療費の免除は損害賠償の一部前渡し
(1)全額自己負担の有料個室代の免除は許されるか
 ところが、つい先日、顧問先の病院がとんでもない誤解をされていることが判明し、目がテンになりました(苦笑)。
 そのケースは、手術中に医療事故が発生しましたが、病院側の整理としては、医療ミスではなく、不可避の合併症だという結論に達しました。ところが、それでは患者側の怒りが収まらず、「病院を訴える」と言って騒ぎだしたため、対応に苦慮した病院側が医療的に必要がないにもかかわらず、有料個室を提供し、その個室代を免除することで患者側の怒りを抑えようとされたのです。そして、なんと、「医療ミスではないので、診療費の(自己負担分の)免除はできませんが、有料個室代は全額免除させていただきます。」と患者側に伝えたというのです。つまり、その顧問先病院は、自己負担分のみの免除は許されないこと、自己負担分を免除するのであれば、残りを保険者に請求するのは間違いであるということは、これまで何度もアドバイスをしてきたので、十分理解されていたようなのですが、そうであれば、全額自己負担である有料個室代を免除することは許されるのだと誤解されていたというのです。正直、驚いてひっくり返りました(苦笑)。
 ところが、案の定、そんなことでは、患者側の怒りは収まらず、診療費(自己負担分)を支払ってくれないので、どうしたらいいのかというご相談でした。
(2)医療ミスではない場合、保険適応外であろうがなかろうが診療費の免除は間違い
 このケースの場合、病院側は、患者側の怒りを収めるため、良かれと思って有料個室代を免除したことが、かえって仇となったわけです。
 そもそも患者側は医療ミスではないという病院側の説明に納得していないわけです。ですから、医療ミスがないのに、なぜ病院側が有料個室代を免除するのかと、と疑いを持ってしまうのです。
 医療的に必要のない有料個室をそれも無料で病院側が提供するということは、いわばその患者を特別扱いをしているわけです(なお、特別扱いが如何にヤバいかについては次回ご説明します)。患者側としては、医療ミスがあったと思い込んでいるわけですから、特別扱いを受けることはむしろ当然と受け止めるでしょうし、そうであれば、診療費(自己負担分)も支払う必要がないということになってしまいます。
 そもそも、仮に医療ミスがある場合、それに伴う損害は診療費だけにとどまりません。医療ミスにより新生児に重篤な後遺症が残ったような場合は、1億円を超える損害賠償が認められることがあり、診療費はその損害のごく一部でしかありません。
 つまり、法的にみると、診療費の免除は損害賠償の一部前渡しという意味を持ってしまうのです。
 ですから、医療ミスではないケースにおいて、診療費を免除してしまうと、医療ミスではないにもかかわらず、医療ミスがあったことを認めてしまっているということになり、やはり、これも自己矛盾というわけです。
 医療ミスではないにもかかわらず、医療者側が良かれと思って、有料個室を無料で提供してしまうと、かえって紛争化し、訴訟提起されるかもしれませんので、要注意です。

(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第12回 掲載記事より(平成31年3月号・第46巻第3号 通巻597号・平成31年3月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))

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