Q21 入院保証書の連帯保証人欄には極度額の記載が必要〜民法改正
1、今回のご相談内容
改正民法が令和2年4月1日施行されます。同日以降、個人根保証契約を締結する場合、極度額を定める必要があり、極度額の設定がなければ保証契約自体が無効となります。例えば入院保証書の連帯保証人欄に極度額が記入されていないと、連帯保証契約人欄に署名捺印がなされていても、連帯保証契約は無効となるわけです。今回は、先日、顧問先の病院の事務部長からこの民法改正に関するご相談がありましたので取り上げたいと思います。
2、いつから適用されるか?
適用されるのは、令和2年4月1日以降に新たに締結される個人根保証契約です。個人根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって保証人が法人でないものをいいます。例えば、入院保証書の連帯債務者欄に署名捺印したら、それはまさに医療機関との間で個人根保証契約をしたことになります。
患者さんが令和2年3月31日に入院されたとしても、連帯保証契約の締結が4月1日以降であれば改正民法が適用されることになります。逆に、3月31日以前に締結された連帯保証契約には改正民法の適用がありませんので、4月1日以降も従前の連帯保証契約(つまり、極度額の設定のない契約)のままで有効ですから、新たに連帯保証契約を締結し直さなければならないということではありません。
3、具体的には極度額をどのように設定すればいいのか?
多くの医療機関では、入院手続きは入院窓口の事務担当者が処理し、入院される患者さんには事前に入院手続き書類一式をお渡ししており、入院初日に入院窓口で記入済みの書類一式を事務担当者が受け取る流れになっているかと思います。その場合、極度額をどの段階で誰が記入すればいいのでしょうか?
答えは、患者さんに入院手続き書類一式をお渡しする前にあらかじめ極度額を明記しておく必要があるということです。つまり、患者さんに入院保証書の用紙を手交する時点で、連帯保証人欄に、具体的な極度額が記載されておらず極度額が空欄のままの入院保証書に連帯保証人の署名捺印がなされたとしも、その連帯保証契約は無効となりますので、要注意です。
なお、極度額の具体的金額を患者本人の明示する必要はなく、あくまで連帯保証人と医療機関との間で設定されればいいのですが、実際のところ、患者さん本人に記載欄と連帯保証人の記載欄が一体となった1枚の入院保証書用紙を使っている医療機関がほとんどでしょうから、自ずと極度額の金額は患者さんの知るところとなってしまいます。
問題は極度額の金額をどう決めるかです。単に「極度額は、未収金の額と同額とする」とか、「実際の診療費と同額とする」と設定するだけではダメです。とにかく、具体的、確定的な金額を設定する必要があります。
ただ実際のところ入院治療経過のなかで、どの程度の診療費になるのか、入院時にはなかなか予測がつかないこともあるかとは思います。しかしながら、改正法が極度額の設定を連帯保証契約の成立要件とした趣旨は、まさにどこまでも膨れ上がる可能性のある連帯保証人の責任に一定の歯止めをかけることにより、連帯保証人を保護するというところにあるわけです。この改正法の立法趣旨に鑑みると、連帯保証人には、まさにどこまでの金額なら保証できるかということも含めて、署名捺印してもらう必要があるわけです。ですから、医療機関側としては、ある程度の見積額を算出して、極度額を設定せざるを得ないということです。
4、もし実際の診療費が予め設定した極度額を超えた場合はどうなるのか?
その場合、連帯保証契約が無効となるわけではなく、連帯保証人は極度額の範囲に限って保証責任を負い、極度額を超えた部分については連帯保証人に請求することはできないことになります。
5、予め入院保証書用紙に不動文字で極度額を印刷しておいてよいか?
これはOKです。実際のところ、入院受付の事務担当者が具体的金額を個別に記載するというのも煩雑ですし、もし記載し忘れたら連帯保証契約が無効となるので、やはり予め同一の極度額を印刷した用紙を用いる方がいいでしょう。
もし、予め印刷された極度額を超える可能性がある場合には、個別に極度額を記入した用紙を使って連帯保証契約を締結したり、あるいは入院期間が長引くような場合で診療費がかさむ見込み出てきた場合には定期的に、たとえば2ヶ月毎に締結し直すといった工夫も必要かもしれません。
もちろん、未収金が発生しなければ保証人の責任は現実化しませんので、医療機関としては未収金対策の一環として連帯保証人の極度額の管理が必要ということになるわけです。
(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第21回 掲載記事より(令和元年12月号・第46巻第12号 通巻606号・令和元年12月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))