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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q22 説明義務違反は恐ろしい?!〜その1

1、今回のご相談内容
 よく「どの程度の説明をすれば説明義務違反にならないのでしょうか?」、「説明した内容をどこまでカルテに記載すればよいのでしょうか?」、「カルテに記載しなかったら、説明したことにならないのでしょうか?」、「定型の説明文書を患者さんに渡して、『これ読んでおいてね』と言っておけば、説明義務を尽くしたことになるのでしょうか?」といったご相談やご質問を受けます。
当職が担当する全ての医療紛争事案において、説明義務違反に問われる可能性はないか、仮に裁判になった場合に説明義務を尽くしたことの裏付けとなる証拠がどの程度あるかについては、必ず慎重に検討しています。なぜなら、医療紛争事案が裁判になった場合には、必ずと言ってよいほど、患者側から説明義務違反を追求されますし、説明義務違反だけで多額の損害賠償責任が認められることがあるからです。 そこで、今回から複数回にわたり、説明義務違反について、お話させていただこうと思います。
2、説明義務違反も「過失」として位置づけられること
 「過失」とは注意義務違反です。すなわち、課されている注意義務に違反した場合に「過失」ありとなるわけです。そして、説明義務も医療者に課されている注意義務の一つですから、説明義務違反も「過失」の一つとして位置づけられることになるわけです。
3、医療ミスがなくても説明義務違反だけで損害賠償責任が認められること
 説明義務違反が恐ろしいのは、医療ミスがなくても、説明義務違反だけで医療ミスがあった場合と同じだけの損害賠償責任が認められることがあるからです。 つまり、たとえ治療行為自体に医療ミス(過失)がなくても、その治療を選択する段階で、患者さんに十分な情報を提供する義務(すなわち説明義務)を尽くされないまま治療がおこなわれ、その治療行為により不測の事態が生じた場合(有害事象が発生した場合)、その結果(有害事象)に対する全損害賠償責任を負うことがあるのです。
例えば、患者さんが「そんな恐ろしい合併症のことなど、先生から一切説明を受けていない。もし、治療前に、そんな恐ろしい合併症があるという説明を先生から受けていれば、絶対この治療は受けなかった」などということを裁判で主張立証し、それが裁判所で認定された場合、説明義務違反と結果との間に因果関係があるということになりますので、仮に本来の医療過誤(医療ミス)が立証できなくても、医療過誤(医療ミス)が立証された場合と同じだけの損害賠償責任が認められることがあるのです。
4、裁判所は説明義務違反が大好き?!
 高度な専門知識を要する医療裁判において、医療ミスがあったか否かを判断するということは、裁判所にとっても至難の業です。そもそも裁判官には、医療者と同じだけの高度に専門的な医療知識はないからです。もちろん、鑑定という手続きを使って裁判所が医学的知識を補充することは可能ですが、それでも、最終的には裁判官が鑑定結果の医学的妥当性も含めて判断しなければならないわけです。それゆえ、いざ、裁判官が医療裁判の判決を書くとなると、相当な時間をかけて多大なる労力を要することになります。 しかしながら、説明義務を十分に尽くしたか否かということについて裁判所が判断するのは、比較的容易です。つまり、要はこれから治療を受けるか否かを選択しなければいけない患者さんにとって、その説明で足りているか否かを判断するだけであり、その場合、むしろ専門的な医学的知識は不要ですから、医療ミスの有無を判断するよりも、裁判所の作業としてはずっと楽なわけです。
それゆえ、裁判所は説明義務違反が大好きといっても過言ではないでしょう。
もちろん、言った言わないの世界になりますから、説明義務違反の有無についての勝負は、どれだけ客観的証拠を出せるかに尽きます。
医療裁判における最重要証拠は、なんといってもカルテです。
では、そもそもカルテがなぜ最重要証拠として位置づけられるのでしょうか。
それは、@患者の症状の把握と適切な診療上の基礎資料として必要欠くべからざるものであり、かつ、A法的に診療の都度医師本人による作成が義務付けられている(医師法24条等)ため、この@Aの両面によってその真実性が担保されているからなのです(東京高裁昭和56年9月24日判決)。 つまり、カルテは、紛争が発生する前に日々の診療業務の過程で作成され、その作成が義務づけられているということから、一般的に証拠価値(証拠が持つ証明力の程度)が高いと評価されるわけです。
ただ、そうはいうものの、実際のところ、説明した内容をすべてカルテに残すことは不可能ですし、そもそも日常の多忙な診療の中であれもこれも時間をかけて説明すること自体、限界がありますよね。
では、どの程度の説明をすれば説明義務違反にならないのでしょうか。また、実際に説明した内容をどこまでカルテに記載する必要があるのでしょうか。
残念ながら、それらはいずれも個別事案における判断となり、ケースバイケースであるため、一般的な基準を明示することはできません。そこで次回からは、当職が実際に担当したいくつか具体的事案を踏まえて、説明義務違反についての各論をお話させていただこうと思います。

(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第22回 掲載記事より(令和2年1月号・第47巻第1号 通巻607号・令和2年1月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))

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