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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q32夫がTIA?!その4

1、今回のテーマ
 今回も、夫が一過性脳虚血発作(TIA)を起こした後の経過を踏まえて、病院が日々努力されているということについて、患者目線+弁護士目線で感じたことについてお話させていただきます。
2、患者は医師に遠慮しがちであるということ
 6月10日(水)、脳外科のF先生の診察を受けました。同じ病院内であるにもかかわらず、診療科が違うからか、脳卒中内科とはなんとなく雰囲気が異なっており、初対面のF先生の前で夫も心なしか緊張している様子でした。
 早速、F先生から、
 ・狭窄率82%の高度狭窄であるが、閉塞ではないこと
 ・狭窄部位のプラークの性質も脂肪の多い不安定なものではなく、安定したものであること
 ・狭窄の長さは短いこと
 ・狭窄部位もプラークが脳に飛ばないように処置できる部位にあること
 ・したがって、ステント治療として難しいものではないこと
 ・処置(手術)は1時間程度で終われるとのこと
という説明を受け、来週にでも手術をしましょうかとのご提案をいただきました。
 あらかじめY先生(脳卒中内科)からは、一旦、退院した上で、脳外科との合同カンファレンスの結果を踏まえて、脳外科に予定入院となるということを聞いていたため、F先生から「来週にでも手術をしましょう」という提案を受け、正直、面喰いました。もしや、そんなに緊急を要する状態なのかと、少し不安になりました。ただ、夫自身は、朝、N先生(脳外科)に激励されたことの影響もあってか、「そういうことなら、すぐ手術を受けたい」と言い出しそうな勢いでした。
 この状況で、多忙を極めておられるだろうF先生に対して、「脳卒中内科で聞いた話と違う!」と言ったところで全く意味がありません。要は、患者家族として、必要な情報と患者本人が不安に思っていることを端的に伝えるべきだという強い気持ちを奮い立たせ、「夫は、平成元年に腎臓癌で右の腎蔵を摘出しており、片腎のため、腎機能を心配しています。一昨日、脳血管造影検査を受けたばかりなので、少し腎臓を休ませた方がよいということはないでしょうか。」と手短かに尋ねました。
 そうすると、F先生は、あっさりと「そうですね。それでもいいですよ。確かに、腎機能のことを考えると、6月8日(月)に造影剤検査を受けた直後なので、造影剤をきっちり排出して、腎臓を休ませたうえで、治療を受けた方がいいかもしれませんね。」とおっしゃっていただき、夫も納得した様子でした。
 さらに、F先生からは、
 ・一時退院したら、血液をサラサラにする薬は忘れずに必ず飲むこと
 (その薬を影響で、ぶつけると痣になるので怪我をしないようにすること)
 ・水分を多くとって、尿量を保つこと
という留意事項の説明を受け、一旦退院をして、6月22日(月)に再入院し、翌23日(火)に脳外科手術(ステント治療)を受ける予定になりました。
 実際、患者の立場になると、多忙な医師に余計な時間と手間をとらせて迷惑をかけるのではないかとか、失礼があってはいけないといった遠慮の気持ちもあり、十分に質問できず、疑問を解消できないまま、納得できない状態で治療を受けるということがあるのかもしれないということを、垣間見た思いでした。
3、再度の緊急入院
 夫は、6月11日(木)に一時退院し、翌12日(金)から仕事復帰しました。これまでも、公私にわたり、ほぼ24時間、365日、夫と一緒の生活でしたが、一時退院後は、再び一過性脳虚血発作(TIA)を起こすのではないかと心配で、これまで以上に、努めてどこに行くのも付き添うようにしました。例えば、近所の理髪店に行く際もお店の入口まで付き添い、1時間後、散髪が終わる頃に迎えに行くといった状態でした。
 食事についても、これまでは、仕事が多忙なことにかまけて、平日の昼夜は、ほとんど外食でしたが、それを一切やめました。1日当たりの食塩量を6gに抑えるべく、ありとあらゆる減塩ツールを集め、あたかも化学の実験の如く、塩分量を計算し、入院中の病院食を真似て、3食、自炊をするようにしました(ちなみに、大きな病院近くのスーパーには減塩ツールの品ぞろえが豊富で助かりました)。
 夫本人は、退院できたことの解放感が大きいのか、とても元気そうでした。入院中の生活を維持すべく、毎日、定時に血圧を測って記録をし、早寝早起きを心がけていました。
 ところが、1週間後の6月19日(金)の昼食後、珈琲を飲みになじみのお店に出かけようとしたところ、突然、不機嫌になり、「歩きたくない」と言い出しました。なぜ、歩きたくないのか、手を変え品を変え聞くと、「歩くのが不安だから」ということでした。
 夫本人は、再入院の日が既に6月22日(月)に決まっているからという律義さからか、やはり病院に対する遠慮があるからか、病院に連絡することを躊躇しました。しかしながら、患者家族としては、このまま、週末に入り、容態が悪化してしまったら取り返しがつかなくなると思い、再び、N先生に電話を入れ、結局、直ちに緊急入院することになりました。
 この時、夫が躊躇する様子を見て、病院の顧問弁護士の立場から、もし患者が遠慮して病院に行かず、その結果、有害事象が発生した場合、担当医から十分な説明を受けていなかったから、病院を受診できなかったという理不尽なクレームに発展することもあるのだろうと思った次第でした。

(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第32回 掲載記事より(令和2年11月号・第47巻第11号 通巻617号・令和2年11月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))

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