Q34夫がTIA?!その6
1、今回のテーマ
引き続き今回も、夫が一過性脳虚血発作(TIA)を起こした後の経過を踏まえて、病院が日々努力されているということについて、患者目線+弁護士目線で感じたことについてお話させていただきます。
2、ステント治療を待つ間
6月22日(月)午前9時から、いよいよ夫は脳外科手術(ステント治療)を受けました。2週間前(6月8日(月))の脳血管造影検査の際は、尿道カテーテルは入れませんでしたが、今回はクリニカルパスにより尿道カテーテルを入れるということで、いよいよ手術なのだという緊張感が高まりました。
午前9時、夫は、病室から独歩にて血管撮影室へ行きました。当職は、血管撮影室の前の長椅子で待つことにしました。結局、その長椅子で3時間半ほど待っていましたが、まあ、その間、とにかく、血管撮影室の中の様子が気になって仕方がなく、職業柄か、血管撮影室を出入りする顔見知りの先生方の様子や、カテーテル業者らしき男性の一挙手一投足から、手術の進行がどうなっているのか、血管撮影室の扉が開閉される度に見える中の様子をのぞき見たりして、勝手に推察し、一喜一憂していました。そのため、3時間半待っている間、とっても疲れました(笑)。
夫が入室して5分後、F先生が颯爽と血管撮影室に入室されました。そのさらに5分後、カテーテル業者らしき男性が段ボール箱4〜5個カートに乗せて入室し、血管撮影室入口付近でF先生とその業者の男性とが、カテーテルを選定しているようでした。その後、9時30分頃でしょうか、その業者の男性が血管撮影室の前をウロウロしながら電話で「多分11時頃には終わると思うんで」と業務連絡をしているのが聞こえ、「ああ、順調にいけば、あと1時間半ほどで終わるのかな」と思いました。
9時45分頃、脳外科のN先生が血管撮影室に入室されました。N先生曰く、「僕は見ているだけですけどね」とのことでしたが、N先生が見ていてくださるということだけでも、安心できました。
そのすぐ後、脳卒中内科のY科長も入室されました。顔なじみの先生方が皆さんでサポートしていただいているということだけでも、患者家族にとっては嬉しい限りでした。
ところが、その10分あまり後でしょうか、いきなりカテーテル業者の男性がスマホを操作しながら、バタバタと入退室を繰り返すようになり、明らかに何かの器具が不足していて、追加調達が必要な状況なのだろうということが見て取れました。もう、心配といら立ちで、いたたまれない想いでした。そのような状況が30分以上続き、10時45分頃でしょうか、ようやく、そのカテーテル業者の男性が、血管撮影室の前で電話を掛け「今、どこ?あんな、もう要らなくなった。返却しておいて。ごめんな。」という声が聞こえました。何かの器具の追加調達の手配をかけたものの、手術の進行状況で、その器具を使う必要がなくなったのだろうと推察されました。それだけでも、待っている患者家族にとっては、安心材料でした。
その後、11時10分頃、そのカテーテル業者の男性が、電話で、「ご安心ください先生。13時であれば必ずお届けします。」と話す声が聞こえました。恐らく、この後、どこか別の病院にカテーテルを納入する予定があるのでしょうか。ただ、その場で今まさに現在進行形で手術を受けている真っ最中である患者家族としては、夫の手術が何事もなく終わることが確実となったということが裏付けられたような想いでした。
その頃、血管撮影室の入り口付近で、N先生らが被爆防護服を脱いでいる様子がチラッと見えました。
11時20分過ぎに N先生が血管撮影室から出てこられました。N先生曰く、「100%完璧に上手く行きました。神業です。これでパフォーマンスも上がるでしょう」とのことでした。それを聞いて、思わず涙がこぼれました。「まだ、これからおそらく止血とかの処置が必要なので、出てこられるまで、あと30分くらいかかるでしょう」とのことでした。N先生は普段からポジティブシンキングではありますが、「100%完璧に上手く行きました」という最上級の表現まではなかなかされないため、本当に手術が成功したのだと実感できました。
11時25分頃、夫の名前の書かれたベッドが血管撮影室に搬入され、それと入れ違いに看護師さんが出てこられ、「もう手術は終わっていて、後は確認だけしたら、大丈夫ですと先生から伝えてきてと言われました」とのことでした。
12時過ぎに、脳卒中内科のY科長が退出されました。「無事終わりました。また、F医師の方から説明あると思います。」とのことでした。
その後、12時25分頃、ようやく夫がストレッチャーに寝た状態で出てきました。意識もはっきりしており、笑顔で、「貴女が綺麗に見える」と冗談を言いました。その時、ああ、本当に大丈夫なのだ、手術は成功したのだろうと実感できました。F先生曰く、「あとでご説明しますが、ほぼ予定通り上手くいきました。逆流も改善されました」とのことでした。脳卒中内科の主治医だったY先生とともに、4階のICUへ向かいました。
当職自身、患者家族として、また日常的に医療紛争を医療者側で担当する弁護士として、何があってもどんな状況になってもしっかり受け止めようと覚悟を決めていました。冗談の言える状況で夫が戻ってきたことで、全身の力が抜けるとともに、すべてのことに感謝の気持ちでいっぱいになりました。これらかも医療者側弁護士として、この素晴らしい日本の医療を守っていかないといけない、委縮させてはいけないと改めて心に決めた瞬間でした。
3、最悪のことを想定した術前説明の重要性〜嬉しい誤算
術後、ICUの面談室でF先生から、術中の画像も見ながら説明を受けました。術前の画像と比較して、見事に血流が改善していることが素人目にもよくわかりました。術前の画像では、右鎖骨下動脈の狭窄部位が砂時計のようにくびれていて、あたかも「水鉄砲」のようにしか、血流がなかったところ、術後の画像では、綺麗に開通していました。予想外に石灰化はきつくなく、プラークも比較的柔らかいものだったとのことで、ほぼ100%(ほぼ10mm)、血管の拡張に成功し、血流も順行性に戻りました。
術前説明では、「82%の高度狭窄(もともと直径10mmある血管が1〜2mmしか開存していない)で、狭窄部位が石灰化している可能性があるため、治療しても2〜3mmしか拡張できないかもしれない」と聞いていましたので、感動ものでした。患者家族にとっては嬉しい誤算でした。
医療者側弁護士として、「手術をするのであれば、必ず最悪のケースを想定して説明してください」と説明義務の重要性を伝えても、「最悪のことを言ったら、患者が治療を受けなくなる」とよく医療者側から反発されます。しかしながら、今回、患者家族の立場になって、やはり、最悪のことを想定して説明することは重要であると実感した次第です。嬉しい誤算は患者側と医療者側の信頼関係をより強固なものにするはずです。是非、最悪のことを説明していただきたいと思います。
(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第34回 掲載記事より(令和3年1月号・第48巻第1号 通巻619号・令和3年1月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))