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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q35夫がTIA?!その7

1、今回のテーマ
 今回も、夫が一過性脳虚血発作(TIA)を起こした後の経過を踏まえて、病院が日々努力されているということについて、患者目線+弁護士目線で感じたことについてお話させていただきます。
2、患者は暗示にかかるもの?!
 術後、ICUで一泊し、術翌日の6月23日(火)のお昼前にICUからストレッチャーで一般病棟に戻ったと、夫から連絡がありました。
 早速、Facetimeで繋いだところ、夫は、晴れ晴れとした表情で、気分爽快とのことで、とても元気な様子でした。
 術後CTも問題ないとのことで、無事、安静解除となり、尿道カテーテルも抜去され、独歩でトイレにも行けるようになったとのことでした。幸い、空きがでたとのことで、トイレ付特別個室なので、夜間の転倒リスクも軽減されて安心な様子でした。
 翌日の6月24日(水)の午前中に、ステント治療後初のMRI検査を受けました。夫曰く、「ステントが強い磁気に反応して拍動しているのがわかって怖かった。ステントが外れるのではないかと気が気でなかった。早く終わって欲しいと念じていた。」とのことでした。本当にそういうことがあるのか、素人には理解できませんでしたが、心配性の夫のことですから、せっかく患部に無事留置できたステントが外れたらどうしようという暗示にかかっていたのかもしれません。
 同日午後には、独歩で1階の売店に行ったりして、順調な回復ぶりをみせていました。ところが、同日夜にN先生(研修医)から、MRI検査結果の説明を受けたらしく、衝撃を受けたと落胆した夫から連絡がありました。夫曰く、N先生(研修医)の説明によると、小脳の左側に5〜10mm大のハッキリと白く描出された梗塞像が見られたということでした。前回入院時に撮影したMRI画像には映っておらず、しかもハッキリ白く描出されているとのことでした。もし、今回のステント治療でできたものならこんなにハッキリとは描出されず、境界がボヤッとしているはずだから、今回のステント治療でできたものではないだろうとのことでした。この小脳梗塞の症状としては、ふらつきなので、今回の再入院の原因となったのはこの小脳梗塞によるものかもしれないが、この小脳梗塞は既に固まっており、今特段の症状も出ていないので治療の必要もないとのことでした。
 ステント治療が完全に成功して喜んでいた矢先に、小脳梗塞が判明したため、夫はかなり落ち込んでいました。
 その後、夫が、「急に立つと、やっぱり、少しふらつく気がする」、「ふらつくなあと思っていた。これで、原因がわかった」、「この小脳梗塞と付き合っていくしかない」などと言いだしたので、気が気ではありませんでした。
 翌日6月26日(金)の夕方、当職も一緒にF先生から説明を受けることになりました。
 F先生からは、ステント治療が無事成功したこと、血流が戻ったことなど、画像を提示いただきながら、分かりやすく説明してもらいました。その上で、多分、夫が今一番心配しているだろうことを、当職の方から質問しました。「小さな小脳梗塞が見つかったそうですが、今回の治療が原因でしょうか?」と勇気を出して尋ねました。すると、F先生は、あっさり「今回の手術の関連で起こった梗塞でしょうね。」とおっしゃりました。病院側の弁護士として、内心(うわぁーーー!因果関係、認めちゃったよぉ!そんなぁ、はっきり認めなくていいのに・・・。せっかく研修医のN先生が今回のステント治療と関係ないと説明していたのに。ホント大丈夫?!)と正直驚きました。さらに、F先生は、「このような画像は、術後4割程度の方に見られるもので、1か月もしたら、よくよく見ないと分からない状態になっていることが多いですよ。」とおっしゃいました(実際、退院して2か月後に撮影したMRI画像では、全く描出されなくなっていました)。病院側の弁護士としては、(なるほど、因果関係はあるけれど、不可避の合併症という整理なのね)と理解しました。当職の方から「なんか、ふらつくらしいのですが」と重ねて尋ねると、F先生は、大笑いされ、「これで、症状が出ることはないですよぉ。」と笑い飛ばしていただきました。そのおかげで、暗示にかかりやすい夫はすっかり安心したようでした。その後、特段、症状も出ず、元気な様子でしたので、如何に、患者というのは、暗示にかかりやすいものだということを痛感した次第でした。
 ただ、病院側の弁護士としては、F先生の説明の際、我々の背後で、IC記録を電子カルテに打ち込んでいるN先生(研修医)が青ざめているのではないかと、気が気ではありませんでした(笑)。N先生(研修医)としては、もしかしたら、F先生をかばう気持ちがあったのか、あるいは経験が少ないために、先走ってしまったのかもしれませんが、いずれにしても、病院側の説明が食い違うのは混乱の元だなあと思いました。
 ただ、今回も、F先生の、ストレートに因果関係を認める説明内容には、すがすがしさを感じました。事実をありのままに客観的に伝えることは非常に勇気がいることですし、正直難しいことだと思います。それができるのは、相当の経験と実力の賜物だと感服した次第でした。
 その後、食塩量は1日6g以内という栄養指導を受け、6月30日(火)、夫は無事退院しました。退院後は夫婦共々、減塩に努め、なんと、それぞれ7kgの減量にも成功しました。脳血流が改善し、まさに“血のめぐり”が良くなった夫のパフォーマンスも上がり、後遺症も一切なく、無事仕事復帰できて何よりです。私事ではありますが、本稿をかりてお世話になった医療従事者の方々に心から感謝申し上げます。

(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第35回 掲載記事より(令和3年2月号(第48巻第2号 通巻620号・令和3年2月1日発行・編集・発行 株式会社クリニックマガジン)

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