当 職「基本的な考え方は、いわゆる院内感染と同じです。」
相談者「あ〜、やっぱり、そうなんですか・・・。」
と明らかに落胆したトーンのため息が聞こえました。当 職「ただね、もちろん、コロナだという特殊性はありますよ」
相談者「そうですよね!」
と今度はいきなり声が明るくなりました。当 職「普通の常識のある合理的な判断ができる善良な市民であれば、第3波の最中、通常の医療も続けながら、感染予防をして、懸命にコロナ対応をされている皆さんを、『コロナに院内感染したのは、感染予防が不十分だったからだ』などと難癖をつけて訴えたりしないですよ。そんなことをしたら、行く病院がなくなって、結局、自分の首を絞めるだけですから。」
相談者「そりゃそうですよね、そうですよね。」
相談者の声のトーンがどんどん上がっていきます。当 職「今、当職が担当している現在進行形の案件でもそうですが、とんでもないクレームを言う人は実際いるんですよ。そういう人が裁判を受ける権利があるからといって、安易に裁判を起こしてきて、応訴を強いられるというのが現状です。」
相談者「過失があるか無いかということではなくて、要は、クレームのあるなしということですね。」
あれっ?話が少しずれてしまいました。当 職「うーん、そういう意味ではなくて。とにかく、過失のある無しは、個別案件での具体的な判断となりますので、抽象的にはお答えできないのです。ただ、いつでも誰でも難癖をつけて訴えることが可能なので、それを心配していても仕方がないということです。実は私も訴えられたことがあるくらいですから。」
相談者「えっ?!水島先生が・・・。」(絶句)
ちなみに、当職自身が訴えられたという話については、また次回以降にご紹介します。相談者「今は特に具体的なトラブルとかには発展していないんですが、結構、危うい状況にはなってきていますので・・・。」
当 職「あのね、不可能を強いられる話ではないんです。コロナというまだ医学的な対応策も解明されていない未知の相手に対して、限られた資源の中で、なんとか工夫して懸命に対処されているという今の現状で私はいいと思います。訴えられたら嫌だからとか、過失があると言われたら嫌だとか、そういう発想ではなくて、不断の努力をし続けておられるというその姿勢で大丈夫です。もし、個別案件でコロナに感染させられたからということでクレームが来たり、訴えられたりしたら、全力で守ります。裁判とか、そこまでいかなくても、ちょっときな臭いなあと感じられたら、勝手に判断せず、安易に謝罪などせず、すぐにキャッチして、御連絡ください。それまでは、今の状態で全く問題ないと思います。」
と最後は、なんだか精神論になりましたが、相談者は、「ありがとうございます。」と電話をかけてきた時とは打って変わって力強い声になっていました。(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第36回 掲載記事より(令和3年3月号・第48巻第3号 通巻621号・令和3年3月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))