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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q37新型コロナワクチンの接種で有害事象が生じたら、関わった医師は訴えられますか?

1、今回のテーマ
 今回も新型コロナウイルス感染症関連の相談です。
 新型コロナウイルスの感染第3波が落ち着き始め、いよいよ医療従事者に対するワクチン接種が始まろうとしていた3月初旬、顧問先病院の院長からメールで相談を受けました。
 そのメールによると、「ワクチンで有害事象が発生したら誰が責任をとるのかが明確ではないという問題があります。過去の多くのワクチン関連の裁判でも、国側敗訴の歴史があり、厚労省はフリーズしている状況かもしれませんが、実際のところ、承諾書があってもワクチンで有害事象が生じたら、関わった医師は訴えられるのでしょうか?訴えられるということだと、本邦でのワクチン接種は不可能になります。もし、法曹界のお墨付きがあれば、医師会は動けるように思うのですが、如何でしょうか?たいそうな話ですが、水島先生はどう思われますか?」との相談でした。
 まことに「たいそうな話」で、一瞬、答えに窮しましたが、今回は、メールでのやり取りをリアルにご紹介させていただきます。
2、誰が責任をとるのかということと、医師が訴えられるかということとは別問題であること
 当職がその院長に返信したメールは以下のとおりです。
 ○○院長へ
 ご相談の件ですが、
 @ 「ワクチンで有害事象が生じたら誰が責任をとるのか」
 という問題と
 A 「実際のところ承諾書があれば、ワクチンで有害事象が生じたら関わった医師は訴えられますか?」
 という問題は必ずしもイコールではありません。
 つまり、@については、まず、国家または各自治体の責任、製薬会社のPL責任の問題ということになるのでしょうが、場合によっては医師(例えば問診が不十分であったためにアナフィラキシーショックを来した等による過失責任)の問題にもなり得ます。
 他方、Aについては、いつでも誰でも難癖をつけて訴えることが可能ですので、そういう意味においても医師が訴えられる可能性がゼロということにはなりません。憲法32条で裁判を受ける権利(訴える権利を含みます)が認められており、「医師を訴えるな!」とは言えないので、残念ながら、医師が訴えられないようにすることは、不可能なのです。
 したがって、残念ながら「訴えられるとなると、本邦でのワクチン接種は不可能になります」ということにはならないのです。
 当職個人の意見としては、今後、コロナ関連の紛争や訴訟はこれから増えることが十分予想されると考えています。
 推測ですが、恐らく、患者側や労働者側の弁護士のところには、既にコロナ被害に関する法律相談や事件の依頼が多数寄せられていることと思います。
 実際、大阪弁護士会のホームページにも、「新型コロナウイルス特設サイト」
https://www.osakaben.or.jp/corona/
が設けられており、ざっと見た限り、さすがに、まだ医療的な被害(院内でコロナに感染させられた。コロナの治療が遅れた。コロナ患者の救急搬送が遅れて死亡した等)に関する記事はないようですが、今後、ワクチンで有害事象が生じた場合等を含めて、医療面でのコロナ被害に関する法律問題や相談についても、あることないこと、さまざまな情報や知恵が飛び交うことを懸念しています。
 大変な状況下で日々奮闘されている医療従事者の方々に対しては、本当に感謝しかありませんが、訴えられることを恐れてやるべきこと(ワクチン接種等)をやらないという選択肢はないとしか言いようがありません。
 それゆえ、当職として言えることは、しかるべき注意義務(問診等)を払ったにもかかわらず有害事象が発生して、訴えられたような場合、「全力で戦って全力で守ります」ということをお約束するぐらいです。
 以上が当職からのメールの返信内容です。
 さらに、その院長から届いた返信メールによると、「当院は、医療従事者の接種には協力する準備をしています。合計●000人位の割り当てですが、それでも●週間かかります。特に問診に時間を取られると接種が終わらなくなってしまうことが大問題です。」との悩ましい内容が記載されていました。
 不可能を強いられる話ではないので、ワクチン接種のスピード感との狭間で、記録を残すという点に留意して、なんとか工夫して乗り切っていただきたいと思いました。
3、副反応による健康被害が生じた場合の補償について
 新型コロナワクチンの接種に限らず、一般的にワクチン接種の副反応による健康被害は、極めて稀ではあるものの、不可避的に生ずるものであるため、迅速に救済するための制度(予防接種健康被害救済制度)が設けられています。
 現在の救済制度の内容の詳細については、厚生労働省のホームページに掲載されています

 (https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou20/kenkouhigai_kyusai/)。

 この制度は、接種に係る過失の有無にかかわらず、予防接種と健康被害との因果関係が認定された場合に補償するものですが、その補償額には限度があり、実際の損害額よりは低額です。そのため、医療者に過失があるとして訴えられるリスクは残っているということになるわけです。

(隔月刊誌※『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第37回 掲載記事より(令和3年5月号・第48巻第4号 通巻622号・令和3年5月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン)
(※『クリニックマガジン』は今月号から隔月刊行となりました。)

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