Q39ある日突然、訴状が来た?!その2
1、今回のテーマ
ようやく新型コロナのワクチン接種が進みつつあるものの、感染者数の増加に歯止めがかからない最中、いよいよ東京オリンピック2020が始まりました。当職も3日前に2回目の接種を受けました。御多分に漏れず、接種した翌日からじわじわと副反応が現れ、24時間以内に39度前後の発熱と身の置き所のない倦怠感がピークとなり、点滴と解熱剤も奏功せず、朦朧とした状態が続きました(呂律が回らず、自分では「A病院」と言っているつもりで「B病院」と連呼したり、階段を上ることもできなくなりました。)。このままの状態が続いたらどうしようという恐怖に襲われましたが、36時間後には何事もなかったかのようにすっきりと復活しました(復活翌日にこの原稿を書いています)。今は、接種部位周辺の発赤と筋肉痛が残っている程度です。ただ、予想をはるかに超える副反応の強さだったため、看病をしていた夫曰く、「このまま気づいたら、冷たくなっているのではないかと心配で、夜も眠れなかった」とのことでした。
さて、前回に引き続き今回も、当職自身が訴えられたことについてご紹介したいと思います。
2、死後の説明会
本件患者(100歳の母親)が死亡後、その息子(原告)から死亡の状況を聞きたいという申し出があったため、原告夫婦に対して、説明会が開催されました。もし、当職がこの時点で当院から相談を受けていたら、説明会の開催は不要というアドバイスをしていたと思います。
説明会では、主治医が作成したメモに基づき、内科医長が説明をしました。後に、原告は、この説明会において、主治医が声を上げて大笑いをしたことで精神的苦痛を負ったとして、主治医に対し慰謝料を請求してくるのですが、当然のことながら、患者死亡直後の説明の際に主治医が大笑いをする状況というのは通常あり得ません。しかしながら、驚くべきことに、後に提起された裁判において、原告は、この説明会の状況を全て録音していると言い張るのです。
主治医によると、この説明会では、本件患者の死因を究明したいというよりは、むしろ主治医に対して非難攻撃したいという意向が強く、とにかく原告は主治医に対して罵詈雑言を繰り返していたそうです。もし、本当に原告がこの説明会の状況を終始録音しているというのであれば、主治医に対する原告の暴言の内容も詳らかになるはずでした。
原告が説明会の状況を録音していると言い張っていたにもかかわらず、結局、その録音テープが、裁判において提出されることはありませんでした。録音テープをめぐるやり取りは、後に当職が訴えられるきっかけともなっており、その顛末については、追ってご紹介させていただきます。
3、調停申立て
本件患者が死亡して約半年後、原告は主治医に対して、慰謝料300万円を請求する調停を申し立てました。
調停は、裁判とは異なり、調停に応じる義務はなく、基本的に話し合いの場を裁判所に求めるため手続きであって、話し合いをしたところで、調停不成立となることも多い手続きです。
本件の場合も、当職が主治医から委任を受けて、一応、調停手続きに応じましたが、そもそも、申立自体、全くの言いがかりである上に、まともな話し合いができる相手ではありませんので、調停期日は1回開かれただけで、即日、不成立となりました。
4、第一次訴訟の始まり
調停不成立となった約4カ月後(本件患者が死亡して1年余り後)、原告は、主治医と内科医長を被告として、慰謝料333万円余りを求める訴訟を提起してきました。調停申立ての際もそうでしたが、訴訟提起の際も、弁護士を代理人として委任せず、いわゆる「本人訴訟」でした。
本人訴訟にありがちなことに、訴状の記載内容は杜撰極まりなく、法的主張はおろか、日本語としても論理が破綻しており、支離滅裂で、読むに堪えない内容でした。
そうはいうものの、裁判となった以上、被告には応訴の義務があり、かつ、調停のような1回で終わるという簡単な手続きでは済みませんので、正直本当に厄介です。
訴状に記載されている内容(これを「原告の主張」といいます。)について、認めるか、認めないのか(これを「認否」といいます。)、認めないのであればその理由(これを「反論」または「被告の主張」といいます。)を明確に書面に記載して提出(その書面を「答弁書」といいます。)する必要があります。
被告が答弁書を提出した後、さらに原告に反論がある場合は、書面に記載して提出(以降、双方の主張を記載した書面のことを「準備書面」といいます。)します。
加えて、裁判は、主張するだけでは足りず、それぞれの主張を裏付ける証拠(これを「書証」といいます。)を提出する必要があります。
裁判というのは、主張を裏付ける証拠(それも客観的証拠)がどれだけ提出できるかで、勝負が決まります。
どんなに粗悪な訴状であっても、一旦、裁判所が受け付けて、裁判手続きが始まってしまえば、この認否反論、主張立証を延々と続ける必要がありますので、裁判というのは非常に面倒な手続きといえるでしょう。弁護士が代理人として就いているのであればまだしも、本人訴訟の場合は、全く整理されていない状態の書面が提出されてきますので、認否反論も容易ではありません。
裁判手続きのイロハについてはこれぐらいにして、次回は、当職が訴えられる(第二次訴訟の)きっかけとなった経緯についてご紹介させていただきます。
(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第39回 掲載記事より(令和3年9月号・第48巻第6号 通巻624号・令和3年9月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン)