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水島綜合法律事務所 - Q&A

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Q40ある日突然、訴状が来た?!その3

1、今回のテーマ
 新型コロナの第5波もようやく徐々に鎮静化しつつあり、現在19都道府県で発令中の緊急事態宣言も9月末の期限でほとんどの地域が解除される見通しが出てきたせいか、街中の人出の多さが懸念されます。
 さて、前回お約束したとおり、今回は、当職自身が訴えられる(第2次訴訟)きっかけとなった第1次訴訟の経緯についてご紹介したいと思います。
2、法廷での尋問
 民事裁判でのハイライトは、何といっても法廷での尋問です。「民事裁判は嘘のつきあい」と揶揄されることがあります。原告側と被告側では、そもそも言い分が異なるからこそ紛争化して、裁判にまでなっているわけですから、立場の違いによって、物事の捉え方が異なっており、思い込みの部分もある上に、時間の経過とともに人間の記憶が変容する可能性も高いため、双方が相手方の証言を「嘘」と感じてしまうこともあるのだと思います。
 「法律により宣誓」をした「証人」が法廷で嘘の証言(偽証)をすると偽証罪(刑法169条)に問われる可能性があります。「宣誓」とは、「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、また何事も付け加えないことを誓います。」と記載された「宣誓書」に署名・捺印をし、尋問の冒頭で、傍聴人も含めてその法廷にいる全員が起立した上で、「宣誓書」を読み上げるという、いわば尋問の冒頭での儀式です。
 「偽証」とは、自分の記憶と異なることを証言すること(主観説)です。つまり、証人が、そもそも思い込みをしている上に、記憶が変容している可能性もあることからすると、仮に異なる立場からすると「嘘」に当たる証言をしても、それが証人の記憶に基づく証言であれば「偽証」にはならないわけです。そのためか、実際、法廷での証言で「偽証罪」に問われるケースは少ないのが現状です。
 ちなみに、原告本人や被告本人も、尋問の冒頭で「宣誓」をしますが、「証人」ではありませんので、「偽証罪」(刑法169条)の適用はありません。つまり、原告本人や被告本人が虚偽の陳述をしたら「過料」(行政罰です。刑事罰でありません)の制裁を科される場合はありますが、「偽証罪」による刑事罰を科されることはないのです。
3、効果的な「ツッコミ」としての反対尋問
 本件に話を戻しましょう。 原告は弁護士を代理人として選任しておらず、いわゆる「本人訴訟」でしたから、原告本人を尋問する原告側代理人(この尋問を「主尋問」と言います。)はいませんでした。そのため、原告本人が自分に対して尋問して欲しい内容をまとめた書面をあらかじめ裁判所に提出し、裁判官がその書面に記載された通りの内容を原告本人に質問するという、ヘンテコな「主尋問」が実施されました。
 「主尋問」の後、被告側代理人である当職から、原告本人に対して「反対尋問」をしました。
 「反対尋問」においては、原告の主張に矛盾があったり、客観的証拠と符合しなかったりといった決定的な弱点を突いて、原告の嘘を炙り出すことが重要です。
 ただ、「反対尋問」をすると、逆に「主尋問」を裏付けてしまう場合もあり、そうなると「反対尋問」は空振りとなるどころか、相手方に塩を送ることになり、まさに藪蛇なわけです。そのような場合は、訴訟戦略として、あえて「反対尋問」を一切しないということもあります。
 このように、「反対尋問」に関して、どのような戦略を立てて遂行するかは、まさに弁護士の腕の見せ所なわけです。要は、どれだけ効果的な「ツッコミ」ができるかが勝負です。 本件の場合、当職は、単に思い込みや記憶の変容では説明がつかない程度に、原告の主張に「嘘」があると確信していましたので、それを、如何に裁判官にわかりやすくプレゼンテーションすることができるかが当職のミッションでした。
 ポイントは客観的証拠との矛盾です。
 第一次訴訟では、原告は、死後の説明会で主治医が大笑いしたことにより精神的苦痛を負ったとして、主治医に対して慰謝料を請求していました。そして、原告は、その説明会の状況を全て録音していたと主張しているにもかかわらず、その客観的裏付けであるはずの録音テープは証拠として提出されていませんでした。
 「主尋問」で裁判官が「声を上げて大笑いしたということを客観的に証明できる資料というのは持っているんですか。」と尋ねたところ、原告本人は「録音を聞いたんですが録音には入っておりませんでした。」、「そのときは大きな声で副院長が説明をしていたので、ほかの音は拾わなかった。ちょうど録音機と主治医との間に副院長がいたので、その笑い声を遮ったんだと思います。」と証言しました。
 その主尋問を聞いていて、反対尋問での一番の「ツッコミ」処はここだと思いました。
 そこで、反対尋問の際、原告本人に対して、「主治医が声を上げて大笑いをされたんですよね。どんな感じだったのか、試しにここでやってみてください。」と再現を求めました。原告本人は「そういう下品なことは私はしたくないですが」と抵抗し、結局、大笑いの再現はしませんでした。
 もし、原告が法廷で高らかに大笑いを再現すれば、どんなに性能の悪い録音機であったとしても、それが録音されていないはずはないですから、原告の「嘘」を際立たせることができます。
 他方、仮に、原告が大笑いを再現しなくても、再現できないこと自体、そのような事実(大笑いの事実)が存在しないことを伺わせる上に、そもそも録音に残っていないこととの矛盾は解消されませんので、やはり原告の「嘘」は明らかとなります。
 要は、その場で原告が大笑いを再現しようがしまいが、プレゼンテーションとしては、どちらでもいいわけです。大笑いが録音に残っていないことの説明がつかないこと、つまり、最初から録音自体、存在していなかったことを印象づけることができれば、反対尋問としては成功でした。 
 そのほかにも「ツッコミ」処は満載でした。続きは次回お話します。

(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第40回 掲載記事より(令和3年11月号・第48巻第7号 通巻625号・令和3年11月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン)

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