Q41ある日突然、訴状が来た?!その4
1、今回のテーマ
このところ、新型コロナ新規陽性者数、重傷者数とも顕著に減少し、死者も一桁台となり、様々な規制が緩和される中、ようやく経済活動も復活しつつあるのを日々実感します。
さて、今回も前回に引き続き、当職自身が訴えられる(第2次訴訟)きっかけとなった事の経緯についてご紹介したいと思います。
2、反対尋問における「ツッコミ」処は満載
如何に原告の主張に「嘘」があるかということと、医学知識が皆無である原告が治療の妨害をした結果、満足な治療を施すことができなかったために本件患者が死亡するに至ったという経緯を浮き彫りにさせることが、本件訴訟における反対尋問でのミッションでした。
本件は医療訴訟であるにもかかわらず、原告が協力医の意見すら聞いていないことは明らかで、原告の医学的知見についての主張立証は、お粗末で陳腐なものでした。
原告の主張に全く医学的根拠がないことを裁判所にアピールするため、当職は、原告本人に対して、「医療関係の仕事の経験はあるか?」、「今回の訴訟提起に際して、どこかの病院の先生に相談したか?」等を質問しました。すると、原告本人は、「間接的にしか・・・。余り詳しく聞いていない」といった歯切れの悪い応答で逃げようとしました。当職から「要は、あなたから、直接、医師に相談はしていないということですね」と念を押して質問すると、「していない」と認めました。
その上で、当職は「あなたに医学的知識はないということですよね」と質問すると、驚くべきことに、原告本人は「医者ではないけれど、医療の知識はある。よく医者に行ったり、健康診断を受けたりしていますから」と言い出す始末でした。その程度の医学的知識しかないことを自認したわけです。まさに語るに落ちた瞬間でした。
さらに、本件患者の相続人は、原告本人(弟)と原告の兄でしたが、兄は裁判に関与しておらず、裁判を起こしてきたのは原告本人(弟)一人でした。本件患者が入院中も、兄は治療の必要性を理解しており、兄が付き添っている間は抗生剤の投与ができましたので、本件訴訟を提起することについても、恐らく兄は反対していたのだろうと思われました。
この点、裁判官も疑問を持っていたようで、裁判官から「お兄さんが訴えをおこしてないのはどういうことか」と質問されました。すると、原告本人は、「兄はつらい目に遭うのが嫌だと言っている。私は法学部出身で、老人に対する不公正な治療を放置することができないという思いで、思い立った」と回答しました。そこで、当職からも反対尋問において、「なぜお兄さんと一緒に訴訟提起されなかったのか」と重ねて質問すると、原告本人は、「私ひとりでやった方が機動的にできる」とか「兄は法学部出身とは違う」とか「裁判を起こすことは、兄には相談していない」と、若干意味不明の応答に終始しました。
結局、裁判官からの質問に対しては、兄に相談したことを前提とする回答をしたにもかかわらず、当職からの反対尋問の際は、兄に相談していないと明言しており、その点だけでも一貫性を欠いていました。
また、弁護士をつけずに本人訴訟である点も「ツッコミ」処でした。「弁護士に相談して依頼しなかったのか」と尋ねると、原告は、「相談したけれど、医療過誤の専門ではないと断られた」とか、「自分は法学部出身だから」と応答しました。もし、弁護士に相談したことが事実だったとしても、弁護士ですら専門外だと断るような本件医療裁判を、弁護士でもない原告本人が法学部出身だからというだけで戦いきれるわけがありません。専門訴訟の中でも特に難しい分野とされている医療裁判を、弁護士をつけずに戦うことは無謀そのものです。それに、医療裁判を患者側で受ける弁護士は大勢います(医療者側弁護士よりも患者側弁護士の方が圧倒的多数です)ので、その気になれば、弁護士を探すのは容易なはずです。それにもかかわらず、弁護士がついていないということは、実際のところ、勝機がないことが明らかな事案であるため、どの弁護士も受任してくれなかったということだと思います(ちなみに、弁護士費用については、扶助制度(法テラス)を利用すれば工面することが可能です)。
もうここからは、怒涛の如く、反対尋問を展開しました。
医学的知識がないにもかかわらず、素人判断で原告本人が治療を拒み続けたために、結局、本件患者が十分な治療を受けることができず、その結果、感染症と心不全の進行を止めることができないまま死亡されたという経緯について、一つ一つ具体的に指摘した上で、原告の言い分(素人判断)を裏付ける客観的証拠が何一つ提出できていないことを丹念に逐一指摘しました。
3、反訴提起
原告は、自らが治療妨害をしたために本件患者が十分な治療を受けられずに死亡するに至ったことを棚に上げて、専断的治療をされたなどという虚偽の事実を主張して訴訟提起したものであって、明らかな不当訴訟であり、このようなモンスターペイシェントによる訴訟提起は断じて許すべきではありません。
加えて、原告は、訴状等において、被告医師個人に対する人格攻撃、名誉棄損及び侮辱行為に該当する内容を記載をしており、その内容は悪意に満ちたものでした。
それゆえ、原告が本訴提起をした約9ヵ月後に、被告医師個人から原告本人に対して損害賠償請求の反訴を提起しました。
その後の展開は次回以降にお話します。
(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第41回 掲載記事より(令和4年1月号・第49巻第1号 通巻626号・令和4年1月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン)