Q42ある日突然、訴状が来た?!その5
1、今回のテーマ
年明け早々、あっという間にオミクロン株に置き換わり、第6波が猛威を奮って新規感染者が日々過去最多を更新する中で、専門家ですらその発言内容を謝罪するなど情報が錯綜し、街中では寒空の下で無料PCR検査待ちの長蛇の行列ができ、挙句、濃厚接触者に症状が出た場合には医師が検査なしで感染の診断を可能とする方針を政府が示したことで臨床現場がさらに混乱し、まさに今パンデミック真っ只中の様相を呈しております。
さて、今回も前回に引き続き、当職自身が訴えられる(第2次訴訟)きっかけとなった事の経緯についてご紹介したいと思います。
2、一審判決(第1次訴訟)の内容
原告の不当な訴訟提起から1年半後、一審判決が出ました。
当然のことながら、原告の無茶苦茶な主張は通るはずがなく、原告の主張全てが「失当」とされ、無事、本訴請求(原告の請求)は棄却されました。
しかしながら、被告医師個人の原告に対する反訴請求の行方については、かなり不満の残る結果となりました。
裁判所は、原告が裁判で提出した書面の中に、被告医師個人に対する人格攻撃、名誉棄損及び侮辱行為に該当する記載があることを認定しました。それにもかかわらず、「本訴は、母を亡くした原告が、医療の専門家でも、法律の専門家でもないのに、被告らに責任があるものと思い込んで提訴したものであるところ、主たる目的は被告らに対する人格攻撃、名誉棄損及び侮辱行為ではないと認められるから、今回に限り、原告の責任を問わないのが相当である」などという訳の分からない論理で、反訴請求を棄却したのです。
「主たる目的」が人格攻撃、名誉棄損及び侮辱行為でなければ、裁判で提出する書面に何を書いても良いはずがなく、なぜ「今回に限り、原告の責任を問わない」のか、裁判所は次回を想定しているということなのか、全くもって意味不明で腹立たしい判決内容でした。
第一審の裁判所の判決に不服のある当事者は,第二審の裁判所に不服申立て(控訴)をすることができます。
原告が直ちに控訴提起してきましたので、被告医師個人としても、一審判決を不服として控訴提起しました。
3、控訴審(第1次訴訟)から最高裁へ
一審では、被告医師個人に対する尋問は実施されませんでした。
理由は、これ以上、原告からの人格攻撃、名誉棄損及び侮辱行為を受けたくないという被告医師個人の意思が強かったからです。
被告医師個人に対する尋問を実施しないことの代償として、当方が提出した被告医師個人の陳述書は、証拠採用されませんでした。原告による反対尋問権を保障するためという形式的理由により裁判所が却下したのです。
そのため、控訴審では、一審が却下した被告医師個人の陳述書を再度証拠として提出するとともに、被告医師個人の尋問請求もしました。
せっかく一審で被告医師個人に対する尋問を回避できたにもかかわらず、控訴審で自ら尋問実施を希望するなんて、矛盾しているように思われるかもしれませんが、そこは一か八かの賭けです。
控訴審は一審同様、事実認定を行う裁判(「事実審」といいます)ですが、一審で実施しなかった尋問を控訴審で実施するというケースは極めて稀なのです。もちろん、一審での審理が不十分だと控訴審が判断したのであれば、控訴審での尋問が実施されることもあろうかと思いますが、少なくとも当職自身が経験したことはありません。
本件の場合、決して一審での審理が不十分というわけではなく、そもそも本件訴訟自体、不当訴訟であることは明らかですから、控訴審で被告医師個人の尋問請求をしたところで、恐らく採用されることはないと予測しました。
当方としては、一審で却下された被告医師個人の陳述書をなんとか証拠採用してもらう必要があり、そのためには、形式的にでも原告の反対尋問権を保障するために、被告医師個人の尋問とセットで請求する必要があったのです。
結果、当方の読み通り、被告医師個人の陳述書のみ証拠採用され、尋問請求は無事却下されました。
そして、控訴審での審理は第1回期日で終結され、控訴提起からわずか2か月で判決となりました。
控訴審での判決結果は、本訴、反訴とも棄却という一審判決をそのまま引き継ぐものでした。
さらに腹立たしかったのは、一審判決では、原告提出書面の中に、被告医師個人に対する人格攻撃、名誉棄損及び侮辱行為に該当する記載があることを認定していましたが、控訴審では「殊更に被告医師個人に対する人格攻撃を目的としたものとはいえないし、その名誉を棄損し侮辱行為に及ぶ趣旨でなされたものともいえない」などと言い切り、その認定を否定しました。
第二審(控訴審)の判決に不服のある当事者は,更に第三審(最高裁)の裁判所に不服申立て(上告)をすることができます。
しかしながら、事実認定を行うのは控訴審までです。最高裁は、法律問題に関する審理を行う裁判所であり、原則として原判決(控訴審判決)における事実認定に拘束されます。
最高裁で審理されるのは(最高裁に上告することが許されるのは)民事訴訟法312条1項,2項所定の場合に限られます。すなわち、原判決(控訴審判決)に、@憲法解釈の誤りがあること、A法律に定められた重大な訴訟手続の違反事由があることが上告理由となります。
加えて、B判例に反する判断がある場合、Cその他の法令の解釈に関する重要な事項を含む場合については、当事者の上告受理の申立てにより、最高裁は上告審として事件を受理することができます(民事訴訟法318条1項)。
控訴審判決からわずか10日後、原告は最高裁に上告及び上告受理申立をしたようですが、その4か月後、最高裁では、当然のことながら原告の上告は棄却され、上告受理申立も認められませんでした。
これで、ようやく2年半にわたる原告からの不当な裁判は一件落着したはずでした。その約半年後、裁判所から「先生に対する訴状はどこに送達すればよいですか」という電話がかかってくるまでは・・・。
いよいよ第2次訴訟が始まることになるわけですが、その後の展開は次回以降にお話します。
(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第42回 掲載記事より(令和4年3月号・第49巻第2号 通巻627号・令和4年3月1日発行
編集・発行 株式会社クリニックマガジン)