Q43ある日突然、訴状が来た?!その6
1、今回のテーマ
桜の開花が始まり、感染力の極めて強いオミクロン株が猛威を奮っていた第6波もようやくピークを越え、18都道府県に適用されていた「まん延防止措置」が全面解除され、街にも活気が戻ってきました。しかしながら、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いており、世界各国からの経済制裁で追い詰められたロシアが生物兵器や化学兵器を使用するのではないかと危惧されており、予断を許さない状況が続いています。
さて、今回は、いよいよ、当職自身が訴えられた(第2次訴訟。)経緯についてご紹介したいと思います。
2、いよいよ第2次訴訟の始まり
約2年半にわたる第1次訴訟が一件落着した約半年後のある日、簡易裁判所の書記官から当職に一本の電話がかかってきました。もう10年以上も前のことですが、なぜかあの電話でのやり取りは、今でも鮮明に記憶しています。
書記官:「先生がご担当になった例の事件ですが、覚えておられますか?今度は先生が訴えられました。」
当職:「はあ?最高裁まで行って、もう半年前には終わった事件ですけど。『今度は先生が』って、そもそも先生(医師個人)が訴えられた事件だけど。」
書記官:「はあ。今度は先生に対してですが、訴状はどちらに送ればよろしいでしょうか?」
当職:「なんでそんなことわざわざ電話で聞いてくるの?病院宛に決まっているでしょ?」
書記官:「先生に対する訴状も病院宛でよろしいでしょうか?」
当職:「病院以外どこに送るのよ?」
書記官:「水島先生の事務所とか・・・」
当職:「まだ委任状もないのに私の事務所に送ってこられても困るし・・・」
書記官:「もちろん、病院の先生の分は病院に送りますが・・・」
(ここまで全く話がかみ合っていません)
当職:「病院の先生の分って、それ以外何かあるの?」
書記官:「水島先生の分も・・・」
当職:「『水島先生の分』って?えっ?まさか、私、私自身が被告ってこと?!」
書記官:(バツが悪そうに)「はい・・・。訴状では水島先生も被告になっておられるようですが・・・」
当職:「私?!私宛の訴状って・・・?えー―――っ?!」
(ようやく、当職自身が被告となって訴訟提起されたという事態を把握)
書記官:「(もの凄く小声で)どちらに送りましょうか?」
当職:「私宛なら私の事務所に決まっているでしょ!!!」
その翌日、当職の事務所に、簡易裁判所から特別送達で訴状が届きました。訴状を直接、特別送達で受け取るのは、後にも先にも、この時が初めてでした。まさか自分自身が被告とされた訴状を特別送達で受け取ることになるとは、本当に胸糞悪く、今このコラムを書きつつ思い出してもムカムカします。
3、既判力を巧みにすり抜けた第2次訴訟の提起
既に第1次訴訟については、最高裁への上告は棄却され、上告受理申立も認められませんでしたので、控訴審判決の結果が確定しています。それゆえ、その効果として、同一当事者間で同じ事柄が別の裁判で問題になったとしても、当事者は確定した終局判決で示された判断に反する主張をすることはできず、裁判所も確定判決に抵触する判決をすることはできません。この拘束力のことを「既判力」といいます。
つまり、同じ内容の訴訟は、やっても無駄ということになります。原告は、法学部出身だというだけあって、おそらくこの「既判力」の意味をご存知だったのでしょう。第2次訴訟では、第1次訴訟とは微妙に異なった(しかしながら、実質的には同様の)主張を展開していました。
第2次訴訟の訴状によると、第1次訴訟でモンスターペイシェント扱いされたために精神的苦痛を受けたとして、医師2名、及びそれらの代理人であった当職自身を被告として、慰謝料50万円を請求するという内容でした。
ちなみに、第1次訴訟での請求額(訴額)は300万円強でしたので、第一審は地方裁判所に提起されました。第2次訴訟での請求額(訴額)は50万円でしたので、原告は簡易裁判所に訴訟提起したというわけです(訴額140万円までは簡易裁判所が管轄となります。)。しかしながら、訴訟提起後直ちに簡易裁判所は職権で地方裁判所に移送しました。曲がりなりにも医師や弁護士が被告として訴えられている事件ということで、簡易裁判所で審理するには荷が重いからということかもしれません。
結局、当職は、「被告本人」という立場でありながら、「被告2名代理人」という立場も兼務して、第2次訴訟を争うことになったわけです。
裁判期日には、法廷前掲示板(廊下)に、開始・終了時間、事件番号・事件名、当事者、代理人、担当裁判官・書記官の名前が記載された「〇〇号法廷開廷表」という一覧表が掲示されます。この第2次訴訟の場合、当事者(被告)欄にも(被告)代理人欄にも「水島幸子」という同じ名前が記載されているわけです。この開廷表を作成した裁判所事務官は、さぞ奇異に思ったことでしょう。
おまけに、第2次訴訟が始まって5カ月を過ぎた頃、あろうことか、原告は、当職に対してのみ、その請求額を10万円上乗せし、請求の追加的変更の申し立てをしてきました。次回はその内容についてお話します。
(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第43回 掲載記事より(令和4年5月号・第49巻第3号 通巻628号・令和4年5月1日発行
編集・発行 株式会社クリニックマガジン)