Q44ある日突然、訴状が来た?!その7
1、今回のテーマ
コロナ新規感染者数が減少傾向となり、夏日が近づく中、マスク不要論に戸惑いながらも、ようやくコロナ禍前の日常が戻りつつあります。
さて、今回は、当職自身が訴えられた第2次訴訟が始まって5カ月を過ぎた頃、あろうことか、原告が、当職に対してのみ、請求額を10万円上乗せし、請求の追加的変更の申し立てをしてきたことにつき、ご紹介したいと思います。
2、当職に対する請求の追加的変更の申し立て
前回お話したとおり、第2次訴訟は、原告が第1次訴訟でモンスターペイシェント扱いされたために精神的苦痛を受けたとして、医師2名、及びそれらの代理人であった当職自身を被告として、慰謝料50万円を請求するという内容でした。
そもそも第1次訴訟で被告医師個人が原告から名誉棄損及び侮辱行為を受けたとして、損害賠償請求の反訴提起をしたのは、原告がまさにモンスターペイシェントだったからです。事実、第1次訴訟の判決においても「同主張に沿う看過し難い部分が存在する」として、原告が被告医師個人に対して名誉棄損及び侮辱行為を行ったという事実が認定されています。
つまり、原告は、被告医師個人に対して、名誉棄損及び侮辱行為を行い、モンスターペイシェントと烙印を押されたにもかかわらず、そのことに逆切れして第2次訴訟を提起してきたのです。
加えて、原告は、当職に対してのみ、請求額を10万円上乗せし、請求の追加的変更の申し立てをしてきました。
その内容は、「被告水島幸子は、社会正義を追及する筈の弁護士でありながら、下記の不適当な振る舞いにより、原告を侮辱し、困惑させ、原告は精神的損害を受けた」というものでした。
その原告のいう当職の「不適当な振る舞い」とは、なんと、第1次訴訟における原告に対する反対尋問のことでした(その内容の詳細については、クリニックマガジン令和3年J月号 第48巻第7号 通巻625号38頁〜39頁「第40回 ある日突然、訴訟が来た?その3」参照)。
原告曰く、
「被告水島幸子は、訴訟代理人であるという立場を利用して、原告の本人尋問において、次の様な発言を行った。
『どんな感じでなの。やってみてください。』
『ここでかまいません。やってください。』
これらは、証人を侮辱し、又は困惑させる質問で違法である。」
とのことでした。
これは、第1次訴訟において、原告が、本件患者死亡後、被告医師が説明の場で、大笑いしたなどという虚偽の事実を主張していたため、それが虚偽であることをあぶり出すことが目的の反対尋問でした。
そして、原告は、この当職からの反対尋問により、ショックを受けたと第2次訴訟で主張しているわけです。
このこと自体、第1次訴訟における当職からの反対尋問が奏功したことを物語っているわけです。まさに、「効果的な『ツッコミ』としての反対尋問」が成功したことを、原告自身が認めてくれていることに他なりません。ある意味、弁護士冥利に尽きると言ってもいいかもしれません。
さらに驚くべきことに、原告は、当職から侮辱を受けたことを立証するため、当職自身を法廷で尋問したいと申請してきました。
もうこうなると、あまりにも馬鹿馬鹿しいので、怒りを通り越して、笑うしかありません。恐らく、裁判所内でも小ネタにされているだろうことは目に見えるようでした。
被告代理人であった当職自身を、原告本人が尋問するなど、絶対にありえない図式であって、万が一そのような事態に至ったとしても、素人である原告が弁護士である当職に対して効果的な尋問ができるわけがありません。
あまりにも馬鹿馬鹿しいのですが、裁判という法的手続きを取られている以上、勝手にその手続きから離脱する自由はありませんので、とことん付き合うしか術がありません。
当然のことながら、当職に対する尋問など、裁判所が採用するはずはなく、結局、再び原告本人に対する尋問のみが実施されることになりました。
3、第2次訴訟における原告本人尋問
第1次訴訟同様、第2次訴訟においても、原告は弁護士を代理人として選任しておらず、いわゆる「本人訴訟」でしたので、原告本人を尋問(主尋問)する原告側代理人はいません。そのため、やはり、原告本人が自分に対して尋問して欲しい内容をあらかじめ書面にまとめて裁判所に提出し、裁判長がその書面に記載された通りの内容を原告本人に質問するという、ヘンテコな「主尋問」が繰り広げられました。
主尋問の中で、原告は、「被告弁護士(当職のこと)が計算をして、仕掛けをあらかじめ考えて、原告の弱みに付け込んで作戦を立てて実行した」と証言しました。ここでも、原告は、当職の反対尋問に自らハマったと自白してくれたわけです。原告のこの証言を聞いて、当職が密かに喜びを感じたことは言うまでもありません。続きは次回お話します。
(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第44回 掲載記事より(令和4年7月号・第49巻第4号 通巻629号・令和4年7月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン)