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水島綜合法律事務所 - Q&A

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Q45ある日突然、訴状が来た?!その8

1、今回のテーマ
 猛暑とともにコロナの第7波が到来するも、特段の行動制限はなく、Withコロナの日々が続いています。7月8日に、奈良で応援演説中の安倍元総理が襲撃されるというショッキングな事件が発生しました。犯人の動機に飛躍があるとして、奈良地検は鑑定留置(刑事訴訟法第167条)を請求する方針のようです。つまり、裁判員裁判が始まる前に犯人の精神鑑定を実施するということです。今や世界中でその死が悼まれ、国葬も予定されている安倍元総理を白昼堂々と殺害したにもかかわらず、刑事司法では、犯人には完全責任能力がないと判断される可能性があるかもしれないわけです(心神耗弱だと減刑、心神喪失だと無罪となります)。今後の裁判員裁判の行方が注目されます。
 さて、今回は、当職自身が訴えられた第2次訴訟における原告に対する反対尋問について、ご紹介したいと思います。
2、第2次訴訟における原告本人尋問(反対尋問)
 主尋問で、原告が「第1次訴訟で当職からの反対尋問にハマった」と自白した時、当職が密かに喜びを感じたことは前回お話したとおりです。
 主尋問の後は、いよいよ反対尋問です。反対尋問は、原告の供述の矛盾点を突き、原告が嘘つきであることを炙り出すことが目的です。
ただ、反対尋問は狙いすぎると、かえって主尋問の内容を固めてしまうことになりますので、要注意です。事案によっては、あえて反対尋問をしないという戦略で臨むケースもあります。
 今回は、多弁ゆえに自ら「ハマる」タイプの相手ゆえ、追い込み過ぎずに上手く喋らせることで、反対尋問が奏功するケースだと思われました。
 とはいうものの、原告は、第1次訴訟で、当職からの反対尋問により精神的苦痛を負ったとして、第2次訴訟を提起してきたわけですから、よもや第3次訴訟のきっかけとなるような反対尋問は避ける必要があります。
 つまり、「被告代理人兼被告」である当職としては、原告から今後二度と不愉快な訴訟提起をされることのないように、原告自身が追い込まれていることに気付かないほどのトーンでソフトに原告に追い込みをかけて、供述の矛盾点を突く反対尋問をしなければなりません。まさに、弁護士としての腕の見せ所というわけです。
 今回のコラムを書くにあたり、当時の尋問調書を読み返してみました。10年も前の自分にしては、鮮やかに原告の供述の矛盾を突く反対尋問となっているように思いました(自画自賛ですみません)。  できれば、その尋問調書の全文をそのまま引用したいところですが、ここでは、ポイントを絞ってご紹介させていただきます。

【1主尋問において原告が「(第一次訴訟において)反訴提起を受けて、これ以上裁判を進めると非常に怖いと思った」と述べたことに対する反対尋問】
当職:被告からの反訴提起を受けて、これ以上裁判を進めると危険なことが身に生じると思ったと、非常に怖いと思ったということですよね。
原告:はい。
当職:しかし、あなた自身、その後、控訴し、かつ上告もしましたね。
原告:はい。
当職:新たに今回(第二次訴訟)、また裁判を提起されましたね。
原告:はい。
当職:結局、その後も、あなた自身が自ら裁判を進めているわけですよね。
原告:はい。
(原告、撃沈)

【2第一次訴訟の反対尋問の際、当職から「大笑いの再現」を求められたことでショックを受けたという主張についての反対尋問】(「大笑いの再現」については、クリニックマガジン令和3年11月号 第48巻第7号 通巻625号38頁〜39頁「第40回 ある日突然、訴訟が来た?その3」参照)
当職:前の裁判では、患者死亡後、カンファレンスルームでの面談の際、主治医が大笑いしたことに、精神的苦痛を受けたと主張していましたね。
原告:(うなづく)
当職:しかし、主治医は大笑いした事実はないと主張していましたね。
原告:そうです。
当職:つまり、主治医が大笑いしたかどうか、これが一つの争点となっていましたね。
原告:争点でした。
当職:そのカンファレンスルームの面談内容は、録音されていたのですよね。
原告:はい。
当職:でも、その録音テープには、主治医が大笑いした声が録音されていなかったんですね。
原告:そうです。
当職:だから、その録音テープを証拠として提出していませんよね。
原告:はい。
当職:録音テープになぜ録音されていなかったのは、その理由はわからないわけですよね。
原告:そうです。
当職:つまり、主治医が大笑いしたという事実を示す客観的証拠は何もなく、被告側は、その事実を認めていない。あなたの主張を裏付けるものは、あなたの記憶しかないわけですよね。
原告:記憶・・・。
当職:主治医の大笑い自体がどういうものであったかは、あなたが経験されて、あなたが記憶されている事実ということですよね。
原告:はい。
当職:つまり、それを法廷で再現することは、あなたしかできないんじゃないですか。
原告:正確に(再現)できるかどうか分かりません・・・。
当職:でも、あなたが記憶していることを言おうと思えば言えますよね。
原告:はい。
(原告、絶句)

【3(第一次訴訟において)反訴状に「モンスターペイシェント」と記載されたことで精神的苦痛を負ったということに対する反対尋問】
当職:あなたは、患者の入院に際し、身元引受人かつ連帯保証人になりましたね。
原告:はい。
当職:入院治療費、約30万円を払っていませんね。
原告:損害賠償請求権を有しているから、留保しているだけです。
当職:あなたが提出した書証に「モンスターペイシェント」の行動例が記載されており、そこには、「医療費は高いなどの主張により支払を拒否する」と記載されていますね。
原告:医療費は高いとは言っていない。
当職:でも、実際払っていませんよね。
原告:はい。
(原告、絶句)

 判決内容については、次回ご紹介します。

(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第45回 掲載記事より(令和4年9月号・第49巻第5号 通巻630号・令和4年9月1日発行
編集・発行 株式会社クリニックマガジン)

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