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水島綜合法律事務所 - Q&A

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Q46ある日突然、訴状が来た?!その9

1、今回のテーマ
 9月に入り朝夕、わずかに秋の気配を感じる季節となりましたが、「第7波」による医療従事者への感染拡大で、医療の提供が困難な状況が全国各地で起きています。そこで、ウィズコロナの新たな段階への移行として、政府から、コロナウイルス感染者が療養のため待機する期間について現在の原則10日間を7日間に短縮すること、感染者の詳細な情報を集める「全数把握」に関しては全国一律で簡素な方法に見直すとの方針が打ち出されました。
 さて、今回は、当職自身が訴えられた第2次訴訟の顛末について、ご紹介したいと思います。
2、第2次訴訟の地裁判決
 判決結果は、当然ながら「原告の請求をいずれも棄却する。」、つまり、当方の完全勝訴です。
 判決文によると、本件の争点は、@反訴状に「モンスターペイシェント」と記載したことの違法性(争点@)、及びA第1次訴訟における反対尋問で「大笑い」の再現を求める質問をしたことの違法性(争点A)の2点に整理されました。
 まず、争点@について、裁判所は、被告医師らは、「医師としての義務に違反する行為を行っていない」ことを明言した上で、原告が「苦情を申し立て、本件患者に対する抗生剤の投与を拒否するなどし、本件患者の死後、カンファレンスルームで被告医師らと面談した際には、入院治療費30万円の支払を留保し、その後も支払わなかった」などの事実を認定しました。
 その上で、反訴状に「モンスターペイシェント」と記載したことについては、上記事実が認められるにもかかわらず、原告が被告らに対し、慰謝料や本件患者の葬儀費用等の支払いを請求してきたことを、「不当訴訟、業務妨害、名誉棄損等を理由に慰謝料を請求するためには、許容される記載である」として、違法性を否定しました。
 さらに、争点Aについて、裁判所は、「被告医師が本件患者死亡後のカンファレンスルームでの説明の際に大声で笑ったか否かが争われていた」ことについて、第1次訴訟における原告本人尋問で、原告が「なぜか録音に入っていなかった」旨述べたため、「被告水島が、反対尋問において、原告に対し、『どんな感じなの。やってみてください』『ここでかまいません。やってみてください』などと質問したものである」ことを踏まえ、「とすれば、当該質問により原告が侮辱されたと感じ困惑したとしても、原告の供述内容の矛盾を突く弾劾目的でなされたものであり、被告らに保障された反対尋問権の行使として許容されているというべきである」として、違法性を否定しました。
 つまり、裁判所から、当職による原告に対する反対尋問が、「原告の供述内容の矛盾を突く弾劾目的」のものであり、それによって、「原告が侮辱されたと感じ困惑したとしても」、被告らの権利として許されるとお墨付きを得たわけです。なんだか、第2次訴訟において、第1次訴訟における当職の反対尋問が効果的かつ奏功したものであったと、あらためて評価されたような気がしました。
 ただやはり判決文で「被告水島」と記載されていることについては、単なる略称とはいえ、いまだに抵抗感がぬぐえません。通常、病院のみが訴えられて、医師個人が訴えられていない医療裁判においても、裁判所は、病院のことを「被告病院」、担当医のことを「被告医師」という略称を使用しますが、時折、担当医から「私は、被告ではない!」とお?りを受けることがあります。「被告医師」と称されたその気持ち、痛いほど理解できます。実際、当職は被告であり、かつ担当医も被告となっていましたので、当職を特定するために「被告水島」と表現せざるを得ないわけです。弁護士として当然理解はしているものの、それでも「被告水島」と称されることには、不快感を禁じえませんでした。
3、第2次訴訟の控訴審
 地裁で敗訴した原告は、直ちに控訴してきましたが、控訴審では、見事に1回結審(審理のための裁判期日が実質1回開かれただけ)で、あとは判決期日のみでした。
 実は、この第2次訴訟が始まった当初、地裁に対しても、1回結審で直ちに判決して欲しいと強く要望しました。ところが、担当書記官に、当職が裁判期日に出頭することを拒否していると勘違いされ、当職の予定を無視して裁判期日が指定されてしまいました。速攻、その担当書記官の不適切な対応に、強く抗議を申し入れ、直ちに、一旦指定された期日が取消しとなったことは言うまでもありません。裁判所を構成しているのも、やはり「人」ですから、コミュニケーションギャップが生じることは多々あります。それゆえ不適切な取り扱いがされている恐れがある場合には、遠慮することなく、強く抗議することも、時には必要となるわけです。
 さて、第2次訴訟の控訴審判決結果は、もちろん、控訴棄却でした。
 控訴審判決では、反訴状に「モンスターペイシェント」と記載したこと(争点@)については、「やや不適切である」とのお叱りを受けたものの「社会的相当性を逸脱するものとまでは言えない」として許容されました。
 加えて、争点Aについては、「被控訴人(被告)水島において、これを直接体験したはずの控訴人(原告)に語らせることによってその迫真性があるかないかを確認し、その信用性を吟味・弾劾する必要があったと推認できる」と、改めて優れた反対尋問であったと評価されました。この判決文を読んで、ガッツポーズをしたことを鮮明に覚えています。
 さすがに第2次訴訟では最高裁に上告されることなく、当方の全面勝訴が確定し、ようやくこの案件から解放されることになりました。調停申立てから始まり、丸5年が経過していました。
 改めて、実際、当職自身が被告という立場に立たされ、数年にわたり裁判に巻き込まれることの大変さや不快感を実感した次第です。

(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第46回 掲載記事より(令和4年11月号・第49巻第6号 通巻631号・令和4年11月1日発行 編集・発行 株式会社ドラッグマガジン)

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