Q48今さら聞けないカルテ開示シリーズ その2
1、今回のテーマ
明日は仕事納めという年末ぎりぎりのタイミングで、夫が新型コロナ「第8波」にやられました。ものの半日足らずで時々刻々と症状が悪化していく夫を目の当たりにして、正直どうしてよいかわからず、さすがに動揺しました。オミクロン対応ワクチンの接種を先延ばしにしていたことを悔やみました。コールセンターに電話をしても埒が明かず、複数の顧問先病院の医師に電話で相談したところ、基礎疾患満載で重症化リスクがあるため、やはり治療を受けた方が良いだろうという判断になり、深夜、救急車を呼びました。ビニールカバーで覆われたストレッチャーに乗って救急搬送された夫は、そのまま10日間、コロナ専用病棟に入院しました。濃厚接触者である当職は、オミクロン対応ワクチンを接種済みだったおかげか、全く何の症状もなく、複数回の検査でもすべて陰性でした。年末年始の予定を全てキャンセルし、とにかく、自宅で一人黙々と、除菌と言う名の大掃除と断捨離に明け暮れ、挙句、軽トラック1台分のモノを処分しました。
5日間の隔離期間が経過した元旦、夫の着替え等を持って差し入れに行きました。その際、ちょうどコロナ専用病棟から運び出されてきた棺と遭遇し、背筋が凍る想いがしました。幸い夫は、抗ウイルス薬の点滴治療が奏功し、重症化することもなく、予定通り10日間の隔離入院の後、無事退院することができました。ただ、特有の咳症状が残っており、退院後も約2週間、極力隔離生活を続けました。
さて、前置きが長くなりましたが、今回も、今や当たり前となったはずのカルテ開示シリーズの続きです。
2、他院からの診療情報提供書は開示の対象外なのか?
医療裁判において、原告側(患者側)から書証として提出されたカルテに、他院からの情報提供書ないし返書が含まれていないということをしばしば経験します。患者側が医療裁判を起こす場合、事前に当該医療機関からカルテ開示を受けているはずですので、その際、当該医療機関が、退院からの診療情報提供書ないし返書を、開示しなかった結果だと思われます。
実際、他院からの診療情報提供書ないし返書は、カルテ開示の対象外としてよいかというご相談をよく受けますので、そのような運用をされている医療機関が多いのかもしれません。
しかし、そもそもなぜ、そのような運用がなされているのか、当職には理解困難です。すなわち、他院からの診療情報提供書ないし返書は、当該医療機関からの診療情報提供書ないし返書とセットであるはずです。言うまでもなく、医療機関同士で、当該患者の診療情報のやり取りをされているということは、その必要性があるからです。当該患者の診療を行うにあたり、他の医療機関との間で、診療情報のやり取りをした結果がどうだったのかということは、片方の医療機関側の情報提供の内容だけではなく、他方の医療機関からの返書があって初めて明らかになるはずです。そうであれば、片方の医療機関からの診療情報提供書ないし返書のみを、当該患者にカルテ開示するだけでは情報不足であることは容易に推測がつくことです。
恐らく、他院からの診療情報提供書ないし返書を開示カルテの対象から外すという運用をしている医療機関は、単純に、当該医療機関が作成した書面ではないからということが理由かもしれません。あるいは、他院が作成した診療情報提供書ないし返書を、当該医療機関がカルテ開示の対象としてしまうと、他院に迷惑がかかるからと考えているのかもしれません。また、もしくは、他院が作成した診療情報提供書ないし返書を当該患者が入手したければ、その他院に対して、改めてカルテ開示をすれば足りると考えているからかもしれません。
しかしながら、たとえ他院が作成した診療情報提供書ないし返書であっても、一旦、当該医療機関に届けられ、カルテに編綴された以上、それらは紛れもなく当該医療機関のカルテの一部です。加えて、既述のとおり、当該医療機関における当該患者の診療に際して必要な情報のやり取りの結果ですから、それはまさに当該患者の診療情報そのものです。他院が作成した診療情報提供書と当院が作成した返書はセットであるはずです。その片方のみだけでは、情報として欠落していることは明らかです。単に作成者が他院であるからとか、他院に迷惑がかかるかもしれないからといった理由で、カルテ開示の対象から外してはいけないはずです。
そもそも、他院に迷惑がかかるということを発想すること自体、いかがなものかと思います(実際、他院作成の書類ということで開示の対象外としている顧問先病院の担当者がそのような理由を述べていたことがありますが、その発想自体、間違っていることを顧問弁護士として苦言を呈したことは言うまでもありません)。
もし、まだそのような運用(他院からの診療情報提供書ないし返書をカルテ開示の対象から外す運用)をされている医療機関があれば、直ちにその運用を変更し、自信を持って開示していただきたいと思います。
(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第48回 掲載記事より(令和5年3月号・第50巻第2号 通巻633号・令和5年3月1日発行 編集・発行 株式会社ドラッグマガジン)