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水島綜合法律事務所 - Q&A

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Q51今さら聞けないカルテ開示シリーズ その5

1、今回のテーマ
 梅雨が明け、今年も猛暑の幕開けです。京都ではコロナ禍で制限されていた祇園祭山鉾行事が4年振りに完全復活しました。個人的には、夫の実家が橋弁慶山保存会(義兄は副理事長です)に所属していることもあり、毎年、祇園祭が始まるといよいよ夏本番という気分になります。当職の事務所(大阪・西天満)の周辺は、まさに今日、天神祭で賑わっております。
 さて、今回も引き続き、カルテ開示シリーズです。暴言・セクハラ行為を繰り返し、居座り続けるモンスターペイシェント事例において、予想外の救世主が現れたというお話です。
2、暴言・セクハラ行為を繰り返し、居座り続けるモンスターペイシェント事例の救世主は?
 前回は、モンスター患者が弁護士を代理人として選任し、「契約解除」は人権侵害であるなどと反論し、おまけに患者が入院中であるにもかかわらず、主治医からの病状説明や転院調整についても、いちいち患者代理人弁護士を通すよう要求してきたというところまでお話ししました。
 この患者代理人弁護士からの要求に対して、当職の方からは、療養介護サービス利用契約の契約期間は1年間であり、1年ごとに契約更新のための協議を実施しているのであって、自動更新契約ではないこと、それゆえ病院側が通知したのは「契約解除」ということではなく、あくまで「4回目の契約更新はしない」ということであること、また、当然ながら、主治医からの病状説明や診療行為自体に弁護士が介入することはできないことを通告しました。
 しかしながら、その後も、患者代理人弁護士があれこれと口を挟み、患者と病院との関係は拗れに拗れ、転院調整もままならない状況が続きました。せっかく病院側が手配した転院先の話もあれこれと難癖をつけて、次々に破談にする始末でした。
 当職からは、療養介護サービス利用契約期間終了日以降は、市から給付されていた療養介護給付費及び療養介護医療費の給付が受けられないこと、加えて、この患者は入院治療の必要性もないことから健康保険への入院診療報酬請求もできないこと、そのため、契約期間終了日以降は患者本人の10割負担となり、病院としては、患者本人ないし連帯保証人(妻)に対して日額2万円超の入院費相当損害金を請求することになる旨を通告しました。
 それにもかかわらず、この患者は、契約終了日以降も居座り続けました。ただ、それまで人権侵害を錦の御旗に主張していた患者代理人弁護士の対応が同日以降は若干緩み、のらりくらりといった対応に代わりました。さすがに10割負担はまずいと思ったようで、「なるべく早期に退院することを考えていますので、退院までの期間の治療費等について御検討いただきますように」と、早期退院を交渉の材料としてきました。
 もちろん、病院としては10割負担の請求を1円たりとも減額する意向はなく、毅然とした対応を続けました。
 その後も、患者代理人弁護士はのらりくらりといった対応を続け、自己負担額は膨れ上がる一方でした。
 契約終了日から数カ月後のある日、患者の妻が息子を連れて面談にやってきました。
 息子は新米の内科医でした。
 これまでの患者(父親)の暴言・セクハラ行為の数々をいくら病院側が説明しても、にわかには信じがたいと、息子も最初は強硬な態度でした。もちろん、患者(父親)本人も全否認でした。自慢の息子の前で自らの悪行を素直に認めるはずがありません。
 そこで、病院側は、患者(父親)の暴言・セクハラ行為の詳細が詳らかに記載された夥しい量のカルテを開示し、全て読んでもらいました。
 そして、その開示されたカルテを全て読んだ息子(内科医)は、全てを察知したのでしょう。途端に救世主となったのです。
 そして、ここまで詳らかに患者(父親)の暴言・セクハラ行為の詳細がカルテに記載されている以上、これらカルテ記載が全て嘘だと言い張ることは到底無理だと、その場で患者(父親)を説得してくれたのです。
弁護士を代理人につけてまで居座り続けたモンスター患者も、自慢の息子に説得されたらあきらめもついたのでしょう。
速やかに10割自己負担で数百万円にも膨れ上がった未払金を全額完済し、無事転院してくれました。

 紛争解決の糸口となったのは、患者の悪行が詳らかに記載された夥しい量のカルテでした。そして、そのカルテが、予想外にも患者の息子(新米の内科医)を救世主にしてくれたというわけです。

(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第51回 掲載記事より(令和5年9月号・第50巻第5号 通巻636号・令和5年9月1日発行 編集・発行 株式会社ドラッグマガジン)

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