Q52今さら聞けないカルテ開示シリーズ その6
1、今回のテーマ
今年は9月になっても30℃を超える真夏日が続いていましたが、10月に入ってようやく朝晩ひんやりと秋の訪れを感じられるようになり、夜は冷房なしで眠れるようになりました。
さて、今回も引き続き、カルテ開示シリーズです。
2、カルテ開示はシンプルに!
先日、ある病院の事務担当者から「患者の遺族より、診療録等開示請求書の提出があり、本日受理しました。『診療録の写し』に加えて『要約書の交付』を求められていますが、『要約書』にはどの程度の内容を記載すればよいのでしょうか」という問い合わせがありました。
正直、内心「またか」と思いました。なぜなら、これまで他の医療機関から何度も同様のご相談があり、その都度、個別に指導させていただいたことがあったからです。
今回も確認したところ、案の定、その病院の診療録開示請求書の用紙には、「開示申請の種類」欄に、
(1)閲覧
(2)謄写
(3)口頭による説明
(4)要約書の交付
が選べるようになっており、院内のカルテ開示関連規程にも、ご丁寧に「診療録等の開示とは、診療録等閲覧に供すること、写し又は要約書を交付すること並びに口頭による説明をすることをいう。」と定義づけられていました。
ちなみに、「口頭による説明」については、「1回1時間以内」、費用についてはタイムチャージの如く1時間あたり●●●●円と明記されていました。しかしながら、「要約書の交付」については、その作成にかかる費用については特に規定なく、カルテの謄写と同様、一枚あたり●●円といったコピー代程度の実費しか請求できない建付けになっていました。
残念ながら、このような建付けになっているのはこの病院に限ったことではありません。インターネットで少し検索しただけでも同様のカルテ開示申請書や規程が複数ヒットしますので、まだまだ現在進行形で、同様の建付けになってしまっている医療機関が存在することが伺われます。
しかし、少し考えていただければわかるはずですが、患者さん側からカルテ開示申請がある度毎に、新たに「要約書」なるものを作成して交付するというのは、煩雑極まりない作業です。それにもかかわらず、「要約書」を作成した場合の費用については、カルテの謄写と同様、一枚あたり●●円というコピー代程度しか請求できないこと自体ナンセンスです。仮に、カルテ開示請求の時点で担当医が既に他施設に異動していた場合、自分の担当患者ではないにもかかわらず、他の医師が、当該患者のカルテを一から調べて、病状を把握し、「要約書」なるものを作成するという作業をしなければならないことになるわけです。その「要約書」の内容がカルテと齟齬がないか、実際の検査データと齟齬がないかの確認は一体誰がするのでしょうか。その「要約書」にどの程度の内容を書けばよいかと弁護士に相談する時点で、その病院のカルテ開示関連規程やカルテ開示申請書が怪しいということに気づいてもらいたいものです。時間と労力を費やして作成した「要約書」であるにもかかわらず、患者さん側に請求できるのはコピー代程度ということになるわけで、極めて非現実的かつ不合理なことであることは容易に想像できると思います。
さらに、「口頭による説明」というのも、本来日常診療の中で必要(病状説明や治療方針を決めるための説明)に応じて随時行われるべきもの(そうでないと説明義務違反に問われてしまいます)であって、改めて患者さん側から(口頭による説明を求めるために)カルテ開示申請をしなければならないというものではないはずです。それにもかかわらず、カルテ開示制度を利用した場合、タイムチャージを請求されるということでは、患者側としてもたまったものではありません。
あくまでカルテ開示制度というのは、既存のカルテ(診療録等)をそのまま事務的に患者さんに開示するというものであって、新たに「要約書」なるものを作成したり、タイムチャージの如く1時間あたり●●●●円などと費用を請求して「口頭による説明」の場を設けたりするものでありません。
日常診療の中で行うべきである(口頭による説明)と、カルテ開示制度とを混同してはいけませんし、そのように混同しているカルテ開示関連規程や診療録開示申請書は速やかに改める必要があります。
カルテ開示手続きは、あくまでシンプルに、既存のカルテ(診療録等)をそのまま事務的に開示する手続きであるということを再認識していただきたいと思います。
ではなぜ、複数の医療機関でこのような混同現象が生じているのか、その原因を当職なりに少し調べてみましたので、その詳細については次回ご説明させていただきます。
(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第52回 掲載記事より(令和5年11月号・第50巻第6号 通巻637号・令和5年11月1日発行 編集・発行 株式会社ドラッグマガジン)