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水島綜合法律事務所 - Q&A

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Q59果たして「後医は名医」か?! その6

1、今回のテーマ
 もう11月下旬だというのに、気温が乱高下しており、毎日の服装選びが悩ましい限りです。
 さて、今回も「後医は名医」ということわざに関連して、当職が過去に後医の代理人として担当した裁判事案(後医における気管支鏡検査終了直後の死亡事例)を取り上げたいと思います。
2、医療裁判のハイライト〜前医と後医の証人尋問
(1)前医(A病院のa医師:循環器内科専門医)に対する証人尋問
 医療事件に限らず、裁判のハイライトは何といっても尋問です。公開の法廷において、嘘を言わないという宣誓をし、裁判官3名の面前で、双方代理人からの質問に対して一問一答式で証言をするわけです。
 前医a医師は女医さんでした。服装は地味目のスーツでしたが、どういうわけか足元はピンヒールでした。他を寄せ付けないオーラ全開でした。
 お世辞にも誠実とは言えない話ぶりもさることながら、およそ素人である裁判官にわかりやすく説明するという態度は皆無でした。加えて、尋問当日までa医師の代理人と十分な打合せができていなかったのか、死因(慢性心不全の急性増悪)について、それまでa医師の代理人が一切主張していなかった独自の見解(肺の出血や無気肺の可能性)を述べられましたので、裁判官を含め原告代理人、b医師の代理人である当職も驚きを隠せませんでした。恐らく一番驚いて動揺していたのはa医師の代理人自身であっただろうと思います。a医師としては、循環器疾患ではなく、呼吸器の問題で死亡したということを印象付けたかったのだろうと思われますが、前医と後医が潰しあう結果となるだけで百害あって一利なしです。
 おまけに、常勤の呼吸器内科専門医がいない前医(A病院)と、常勤の循環器内科専門医がいない後医(B病院)との連携の悪さが争点となっている訴訟であるにもかかわらず、a医師曰く、「B病院で気管支鏡検査実施が無理かもしれないという想定は、3割〜4割程度思っていた。」にもかかわらず、「慢性心不全の急性増悪のリスクがあることはb医師には伝えていない。」などと不利な証言のオンパレードでした。挙句、「他科からの依頼で、最終の検査をするのが自分である場合は、自分で最終のリスクを判断します。他科に依頼するときは、その検査をする他科でリスクを判断してもらう。」と、前医と後医との間で連携を取らないことを正面切って認め、b医師に責任を擦り付ける証言までされました。
 そのようなa医師の証言態度に裁判長は容赦なしでした。裁判長から補充尋問の際、その冒頭で、「先生は、今日、とても早口ですね。専門的で難しい内容を早口で証言されていますが、患者さんの前でもそのような話し方なのですね。」と苦言を呈されてしまいました。さらに、A病院で既に中等度の心不全状態であったにもかかわらず、b医師に対する診療情報提供書にはそのことが一切記載されていないのは、情報提供として、あまりにも不十分であると指摘されました。
(2)後医(B病院のb医師:呼吸器内科専門医)に対する証人尋問
 引き続いて、b医師に対する証人尋問です。この日のために、数か月間、当職の事務所において、何度も何時間もb医師と打合せを重ね、周到な準備をしてきました(b医師曰く、「裁判が始まってから20sも体重が減った」とのことでした)。尋問当日、4時間半もの長時間にわたり証言を強いられたにもかかわらず、b医師は、執拗な反対尋問にも首尾一貫して崩れることはありませんでした。反対尋問中、b医師の代理人である当職は、「異議あり!」以外、手出しができませんので、懸命に証言されているb医師を見守ることしかできず、もどかしさを痛感しました。ただ、原告代理人及びa医師の代理人からの反対尋問中、裁判長が当職に何度も目配せをしてきましたので、b医師に対する裁判長の心証は決して悪くないことが確信できました。
 特に、医療裁判の尋問において、「可能性があるか否か、二択で答えてください。」という質問は要注意です。医療の世界では「可能性がない」とは言い切れません。それを逆手にとって、一旦「可能性はある」と証言させられてしまうと、続けて「可能性があるのであれば、なぜそうしなかったのか」と責められるからです。この点は繰り返しトレーニングし、準備しました。予想通り、原告代理人は「心電図モニターを装着していれば急変をキャッチできた可能性があるかないか、二択で答えて下さい。」と執拗に反対尋問してきました。これに対して、b医師は決して正面から答えず、「それはわかりません」とかわしました。裁判長まで若干切れ気味で、「可能性があるか否か、いずれかで答えてください。」と追い打ちをかけてきましたが、一切ぶれずに「それはわかりません」と応答し続けた態度はあっぱれでした。
 b医師に対する証人尋問が終わったのは午後6時半でした。即日、直ちに裁判所の心証が開示され、裁判所から和解勧告されましたが、その詳細は次回お話します。

(隔月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第59回 掲載記事より(令和7年1月号・第52巻第1号 通巻644号・令和7年1月1日発行 編集・発行 株式会社ドラッグマガジン)

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